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「お遊さま」 [映画]

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溝口健二&宮川一夫の画の美しさはやっぱりため息もの。
新緑の若葉は陽光を透かして瑞々しい色彩を放つ。モノクロームだからこそ無限の色彩が表れ得る、その鮮やかさ。
なめらかに視点は移動し、その動きはひたすら快い。絵巻をひもとくように次々とうつりゆく悦楽の映像。
大胆で精緻な構図、繊細な光と色彩。どこを切り取っても絵になる。
妙なるかな。

描き出されるのは、不器用にすれ違う、もどかしい男女の姿。
見合い相手のお静ではなく、付き添いの姉、お遊に心を奪われる慎之助。
姉と慎之助を取り持つために慎之助に嫁すお静。
無邪気に妹の縁談を喜ぶお遊さま。
交錯する思慕の糸で、三人はいびつに結ばれる。

無邪気にはしゃぐお遊さまは、かわいらしくも危うい。
すべてを見通した上で、お静と慎之助を弄っているように見える。
さながら猫が獲物を生殺しにして楽しむようでもあり。
戦慄。
残酷な官能。

この感じは確かに谷崎なのだけれど、あの濃厚で濃密な印象がまったく違っていて。
谷崎を、芳香漂う黄金の泥濘とするなら、「お遊さま」はどこまでも透き通って清らかに澄む毒水。
谷崎と溝口が融合してあらわれた、硬質の幻想。
母岩に埋まったままの宝石の結晶を覗きみるような、手の届かないもどかしさが胸を焦がす。


お静。
姉の小袖をまとい、最後の最後に漏らした心が終止符を打つ。
なんてことだろう。
あまりにも聡い。
狡猾さのかけらも持たないが故に、歪んだ美しい振る舞いがもたらされた。

お静も、慎之助も、お遊さまも、最後の最後まで不器用でもどかしい。


妙なるかな。





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