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「Strawberry shortcakes」魚喃キリコ [書籍]

魚喃キリコはイタい。
「鳩よ!」('00年9月号/マガジンハウス)で特集が組まれたとき、自筆の落書きが数ページにわたって掲載されてたんだけど、「あたしの金なんだよ! あたしの金なんだよ!」って何度もゴリゴリ書きなぐってあって、どうやらそれは彼氏だか前カレだかに対するものであるらしかった。
うへえ。イタいわー。もっとも、わざとイタい編集にしたんだろうけども。
ぱらっと立ち読みしただけなんだけどよく覚えてる。

椎名林檎もアレだけど、’90年代後半くらいから、ガールズが吠え始めたのかもしれない。

お目々に星をきらめかせて背景に花を散りばめたふわふわ夢みる少女漫画は、’80年代半ばくらい、岡崎京子とか桜沢エリカとか内田春菊あたりから、リアルに等身大に語られはじめる。セックスの描写も含め、恋愛もきれいごとだけじゃなくなった。
個人的によく覚えてるのは、指先に爪が描かれ始めたことかな。それまで手の描写って指の節とか爪とかが省略され、小さく華奢なお人形の手みたいだったんだけど、ストーリーやテーマが等身大を目指すと同時期に絵柄も変化。指先に爪がちゃんと描かれ、体つきや顔立ちや肉感的に、服装やインテリア小物なんかもよりリアルな描写に向かってった印象がある。
(そういう生々しさが苦手な向きは川原泉佐々木倫子遠藤淑子あたりの知的ユーモア・人情ドラマを好み、きらきらな恋愛の夢をみていたい一派は女性性と向き合うのを避けてBL方面に向かった。なんつったら大雑把過ぎかしらん)


それでも、「Strawberry shortcakes」の冒頭には

こんなふうなあたしたちでも ほんとはまるで苺のショートケーキみたいなのよ。

と、謳われてたりする。
“こんなふう”ってのは「あたしの金なんだよ!」的な痛さ、生々しさなんだけど、それでも、女のコなのよ、と。
ふわふわとかわいらしく、子どもみたいに無邪気に甘く、華奢で壊れやすいガールズなのよ。

なんでまたガールズはそんなふうに痛々しく吠えるのかてーと、それがリアルだからってのもあるけど、ある種のアピールなんじゃないかと思う。
女のコはケーキみたいに無邪気でかわいく居てほしいよな、的な何者か(男子はもちろん、親とか周囲のオトナ、得体の知れない世間とか社会とか、さらには自分自身も含めて)に対しての。
こうみえても結構いっぱいいっぱいで鬱積してんだよ。無邪気に見えるかもしんないけど必死なんだよ。甘く見ないで、油断してないでよね、ていう。悲鳴とか、威嚇みたいな。
冒頭のケーキ宣言の締めはこうだもん。

今に見てろよバカヤロー。

なので、たとえば「Strawberry shortcakes」を男子やオトナが読んだとしたら、ウザっ!ってドン退くか、臆してうろたえるしかないだろうと思う。
これらの台詞はそういう、うろたえる男子に向けられてるふうにも読める。
「ま、こんなふうでも、ほんとはかわいいケーキなのよ」って、にっこり言い放つ。「ざまあみろ」って訳です。


とはいえ、ただ単に痛々しい自意識の垂れ流しなら表現として見るに耐えないはずで、そこはそれ、ちゃんと演出が施されている。
キリっとした線のスタイリッシュな絵は、従来の少女漫画の絵柄よりもイラストレーションに近い。漫画的な記号(フラッシュとかナワアミとかの背景、書き文字などの効果)が排されていて、絵の表現は非常に抑制されている。ネーム(セリフやモノローグなど言語表現部分)がなかったら話も登場人物の気持ちもまったくわからないくらいに淡白。
逆に言えばネームがひっじょーに重要。テンション高くってイタさ爆発。
つまりそれはバランスな訳だ。抑制された絵のクールさとネームのはっちゃけ具合の拮抗がキモ。

お話としても冷静な組み立てが為されてる。
息詰まりそうな展開に、息抜き的に挿入される里子のエピソードなんかはイタさを笑う冷静さが垣間見える。
単にぶちまけてるんじゃなくって、効果的にぶちまける。ちゃんとつくってある。



ちなみに映画化されてる。
だけど、これが実写だと生々し過ぎて「あたしの金なんだよ!」的イタさ倍増、ちょっと露悪的なほどイタさが強調されてるみたいでキツかった。
白黒二次元の単純化された漫画の絵柄でさえ、ぎりぎりまで線を省いて抑制されてるのに、これが実写で生身の人間が演じるとなったらもっと抑えてほしいとこだよ。そんなぽんぽん脱いでセックスしたりゲロゲロ吐いたり、ウジウジドロドロされた日にはイタ過ぎて目もあてらんない。キツいわー。
まあそのキツさっていうのは近親憎悪的な嫌悪もたぶんに含まれてて、どうかするとわたしも「あたしの金なんだよ!」で「ざまあみろ」なんだと思う。
イタい女なんか自分だけで充分だっつーのに、この期に及んでイタさ強調ガールズは勘弁です。







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コメント 4

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yutake☆イヴ

たびたびこんにちは★

>イタい女なんか自分だけで充分だっつーのに、

あ~なんか、痛そうです.....。
見てないので、早く見たいけど、怖いような痛いような、
痛すぎるような......。
by yutake☆イヴ (2009-07-01 18:30) 

シロタ

コメントありがとうございます

原作は、映画観る前に読まない方がいいかもしれないです。映画→原作で。

yutakeさんには近藤ようこ「絹の紐」(太田出版)の方がお薦めかも。

by シロタ (2009-07-02 08:35) 

ベタ子

こんにちは。

私は今まで見てきたコミックスとか、音楽とか、“ふわふわジョシ”の描写のものが多かったので、この映画とコミックスは、「へぇー、こんなリアルなこと描いてるひとたちがいたんだー」という発見でもありました。

こーいうイタ女描写は、常にみたいとは思いませんけどね。
でもなんかこう、気持ちがからっぽなときにスッと入ってくる強烈さ加減は、上半期いちばんって感じでした。

映画→原作でよかったと思いますね。
逆だと、ちょっと物足りなさを感じそうですし、キクチのあたり。
まー映画ではよりジョシに焦点あててたのが良かったという気もします。
あからさまなセックス描写の方に男性陣が引いてしまうのは、残念なところです。
by ベタ子 (2009-07-04 18:09) 

シロタ

ベタ子さん、いらっしゃいましー。コメントありがとう。

そうそう、イタ女も常に痛々しい訳ではないですよねー。
ふわふわも笑えるとこも多面的にいろいろとある中で、特に痛々しく脆いところをざっくり深くえぐられる感じです。


>あからさまなセックス描写の方に男性陣が引いてしまう

これは、わざとエグめに撮ってる感じがしましたです。
性的ファンタジーみたいなものの欠片もなくって、わざとヒかせる演出なんじゃないかと思っちゃいましたが。

男の夢とか、たぶん壊滅的打撃でしょう。
で、女子はたまに、男子のファンタジーっぷりに「夢みてんじゃねーよ」と言いたくなったりするときがあると思うんだけども、たぶん、そういう描写なのかと思いました。
男子ドリーム粉砕「夢みてんじゃねーよ」的セックス描写(笑)。だとしたら、そりゃヒくわー。

個人的には粉砕されちゃった男子に同情します。気の毒に。
ていうか、ベタ子さんは、最初っから「見るな」って言ってんのにね(笑)



by シロタ (2009-07-06 12:25) 

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