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「激しく、速やかな死」佐藤亜紀 [書籍]

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佐藤亜紀さまの新刊、短編集。発売日にほくほく入手してねぶねぶ読んだものの、難しいというか取っ付きにくいというか、キビしかった。

そも大蟻食さまはご自身のブログにて、自分の作品は万人に向くものではない旨、警告をくださっているわけなんだが、それはまあ承知していたつもりなんだけれども、常にもましてこの短編集はキビしい。
なにしろ、サドもタレイランもメッテルニヒもボードレールも知らんし、「戦争と平和」も読んでないのでいくつかのお話なんかはまったくちんぷんかんぷんだった。巻末に、作者による解題としてネタ元が示されているけれども、本来、こういう書物はネタ元なんぞは言わずもがなで承知の上、余裕ぶっこきで軽ーく読み流し、ふふーんなるほどねってニヤニヤ笑って楽しむもんなんじゃないかと思うんだけども、そんな余裕ないっすわ。
とりあえず、今までの佐藤亜紀作品体験をとっかかりにしがみついてみた、って感じ。


「激しく、速やかな死」
話の筋も語り口も全然違うんだけど、「ミノタウロス」みたいな読後感を感じるような。
死とは、断頭台みたいに恐ろしげで劇的な代物ではなくって、何もなくなること。意味を失うこと。

53ページ。
どれほど牢獄でさめざめと泣こうと、どれほど髪を掻きむしろうと、逆にどれほど従容と全てを受け入れようと、何の区別もない。どれほどの血が流れようと、どれほど群衆が熱狂しようと、犠牲者がどれほど毅然としていようと暴れようと、意味は一切ない。<中略>わたしがわたしであり、あなたがあなたであったことに何の意味もなくなってしまったように、その後のことにも意味はありません。それが意味です。

このくだりが「ミノタウロス」の最後、ヴァシリが死ぬとこに印象が重なるような気がして。
「スローターハウス5」みたいな感じもした。「そういうものだ。」


「荒地」
なんか知らんうちに恐ろしく野蛮な世界が訪れる。不穏な感じ。
「天使」で、一次大戦前夜、ジェルジュが、僕たちは負けたんだ、って思うくだりとか。
または、「魔の山」(エッセイ集「検察側の論告」でも書評なさってるし、なんやかや取り上げられることが多い印象がある)みたいな。
これもっと長編で読みたいなあ。


「金の象眼のある白檀の小箱」
とっても意地悪くって痛快。笑った。

140ページ。
それにしてもほんとうに男の人って勝手なものね。


「フリードリヒ・Sのドナウへの旅」
とっても明晰な狂人の話。ひょっとしたら、滑稽なお茶目さんの笑える話か、完璧にイっちゃってるヤバいやつのサイコホラーにもなりそうなんだけど、どっちにも転ばずに淡々と冷静。


「弁明」「アナトーリとぼく」「漂着物」は、ほとんどちんぷんかんぷん。短編はとっかかりが少なくってキビしい。



んで、大蟻食さまは最近もまた、「馬鹿は読むな」とか、読めてないよー、と厳しい言を発してらっしゃる訳なんだが。
単に“君にはむかないよ”っていう親切だと思うんで、一般の読者としては無闇に卑屈になることもないし、好きに読ませろよ、って逆ギレしたりもしなくてよさそうな気がする。
たぶん難しいだろうけど背伸びして読んでみた、とか、やっぱり歯が立たなかったけど興味をもったので「戦争と平和」を読んでみようかと思う、なんていう人のことまで馬鹿呼ばわりはなさらないと思うけど。

評論家は別だろうけど。
最近、笙野頼子の「ドン・キホーテの「論争」」(講談社)を読んだんだけど、評論家を名乗る方々の中には作家に大変な狼藉をはたらく輩がいるのだなあ、と驚き呆れたもので。






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