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「シテール島への船出」「こうのとり、たちずさんで」 [映画]

毎度ご贔屓の早稲田松竹にて二本立て鑑賞。
テオ・アンゲロプロスていう映画監督の名前は聞いたことあったんだけど、作品は初めて観た。ギリシャの映画を観るのも初めてかもしれない。
国境三部作といわれる三作のうちの二作品だそうな。三部作っていっても別に続きものってことではない。




「シテール島への船出」では、32年前にソ連に亡命した父親スピロがギリシャに帰ってくる。
どうして亡命したのか、亡命せざるを得なかったのか、たぶんギリシャや近隣諸国、ヨーロッパの歴史に詳しくないと今ひとつ掴めないし、その父親を迎える家族やかつての村の住民たちの心情は、とてもじゃないけど想像の及ぶところではない。安易にわかる、って言っちゃうと軽薄に思えて申し訳ない感じの。だいたいが日本人は国境てもの・ことについて疎いんだと思う。疎くていられる。
スピロ老人の受け容れに困ったギリシャ側の役人はソ連へ還らせようとするもソ連船に断られ、国籍のない老人を中間域の海上に置き去る。雨の中、海の上に佇む老人の姿はなんだかシュールで、それだけに事態の奇態さ、理不尽さ、不可解が際立つ。
たぶんギリシャ人やヨーロッパ人の十分の一もわかってないんだろうけど、それでも、身をひしがれるような痛みみたいな重さを感じた。
憤りと悲しみと諦めの混ざったような、複雑な心情が、骨にクる。歯痛に似てる。

映画のつくりとしても凝ってて、スピロの息子アレクサンドロス(映画製作の仕事をしてる)がつくってる映画(映画内映画)が現実の状況と重なって展開する仕掛けになってる。
冒頭で、オーディション場面で「私だよ」という台詞が繰り返される。その後、ラベンダー売りの老人を追って見失ったアレクサンドロスが、港で還ってくる父親を迎える場面にするっとシームレスに続き、還ってきた父親がまさに「私だよ」て言う。鳥肌。映画内映画っていう虚構が現実になる瞬間ていうか。オーディション場面の「私だよ」が予言的に感じられてぞわっとキた。





「こうのとり、たちずさんで」は、「シテール…」よりも直截で平明かも。
国境を越えて亡命してきた人々を一時的に住まわせている国境地域を取材するテレビ局レポーターの視点で、国境を越えたり守ったり挟んで対峙したり、ただの線でありながら非情に人間を分かつ様態を描き出す。
国境地域を取材していて、10数年前に忽然と失踪した政治家らしき人物を偶然に捉えたことから、失踪の謎を探りつつ、とある亡命者の娘と情を交わすんだけど、その娘は同じ一族の青年と国境の川を挟んで結婚する。
この結婚式の場面は同じく国境を挟んだお話「シリアの花嫁」にも共通する痛さ切なさがあるんだけど、「シリア…」のどこかしらユーモラスに笑えるところがあって希望をにじませる風合いと異なって、あまりにも静かで非情で無惨。




国境てことをシビアに意識せずに暮らしていけるわたしが国境なんて糞だ、って言っちゃうのは安直過ぎで、実際のところ言葉や生活習慣の違う人々がいきなり身近に暮らし始めてどんどん増えてったりしたら、それまでの自分の生活が脅かされるように感じられて、出てけ、って気持ちになったりもするだろう、と思う。その、出てけ、の線、この線からこっちは俺たちの住処、っていう線が国境なのかな。
その国境を越える人々というのも財産や生命を脅かされ、自分たちの住処を追われてきてたりする。居場所を持てない人々の寄る辺なさ。
人ひとりが居住に必要とする面積のことを、「起きて半畳寝て一畳」なんていったりするらしいけど、その半畳や一畳を得るのが異様に難しかったり、あるいは人ひとりの存在そのものを認めたがらない国家や政治や歴史や民族があったりするってことの非情な現実。

ギリシャっていう国、というか、戦争のたびに国境線が動かされて国家が生まれたり消滅したりを繰り返してきた、ヨーロッパ地域の人々の視る国境の姿は、重いとか酷いとかそういう感想も持ち得ないほどの異形で、ものすごくわからないものが厳然と聳えて立ちふさがってるみたいに思えて、途方に暮れた。
なんかもう、へとへとにくたびれた。いろんな映画があるもんだなー。


さらに、佐藤亜紀の「陽気な黙示録」(ちくま文庫)所収のエッセイ「文明の衝突?」「故郷への長い旅」あたりを読むと歯痛感倍増で沁みる。かも。




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コメント 2

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shim47

 こんばんわ。アンゲロプロスの映画はあの驚異の長回しのたびに何故か息が詰まりそうになります。タルコフスキーに輪をかけて長い。DVDプレイヤーが壊れてしまったのではないかと心配になるくらい長いと毎度思います。
 ハリウッド製の娯楽映画が雑誌だとするとこちらは学術書ということになるのでしょうか。大きな構えでジワジワと圧力をかけてくるような作風はやはり諸々のギリシャ悲劇を生み出したお国柄かなあ、とも見ています。

 私は本作をまだ見ていませんが、手元には『旅芸人の記録』があります。これまで見た作品はどれもそうですが事前の覚悟を必要とする作品群に思えます。一つ見終えるとしばらくどんな映画も見る気が起きないくらいヘビーですね。
 二本も立て続けに鑑賞となればさぞかし馬力を要した事と推察されます。お疲れさまでした。
by shim47 (2010-03-18 00:59) 

シロタ


こんにちは。

この二作の場合、長回しもさることながらテーマの重さが堪えました。
おっしゃる通り、じわじわと圧力で迫ってくる感じの、圧搾されるみたいな感覚がありますね。

ヘヴィでしたが、得難い体験でした。ほんと、いろんな映画があるもんなんですねー。

by シロタ (2010-03-18 16:19) 

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