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「8 1/2」 [映画]

「NINE」はちょっとアレだったけど、「8 1/2」を観るきっかけになったっていう意味ではまあよかったのかも。



おもしろい。すんごくおもしろい。何回も繰り返して観ちゃった。
空を飛ぶ主人公グイドの足にロープが絡まって、引っ張り下ろされそうになる、初っ端からイマジネーションが伸びやかに湧いてくる。
画が快い。観てていちいち気持ちいい。

主人公の映画監督グイドは製作に行き詰まって懊悩するんだけど、その悩みっぷりは結構笑える。ていうか、笑えるくらいに対象化・相対化されてて、ネタになってるんだと思う。上述のロープで捕縛されるイメージとかもそうだし、記者会見を嫌がってじたばたするのとか、子どもかよ(笑)。で、そういうツッコミの類いを期待する道化た感触。
漫画家が、うわーん描けないよ締め切りコワいよーっていう自画像や、鬼のような編集者が出てきて怒られる漫画を描いたりする、あんな感じ。

そやって、グイドが周囲にせっつかれまくって焦ったり悩んだりする様と、映画の構想や、こんなふうになればいいのにーっていう妄想や、少年時代の思い出の場面が幻想的に交錯する。

グイドを取り巻く女性たちの描写、女性がらみの妄想イメージは、フェリーニだからなのかイタリア男だからなのか両方だからなのか知らんけど、なんつーかもう呆れるくらいに女好き全開ぶっちぎり。ここまで素直だと笑えてくる。いや、わたしが10歳若い頃に観たんならちーと辛辣にかましただろうし、15歳若けりゃカンカンに怒ってたかもしれん。ていうくらい、甘えまくり。
ハレムで女性に取り巻かれ「世界一の男(子どもんときの甘やかされ台詞。笑)」ってチヤホヤされ、鞭をピシピシ振り回し、健気な妻は床磨きしながらニコニコ幸せそう、って、阿呆かーーーーっ! って笑った笑った。そんなわかりやすい隙だらけの妄想なんてツッコミ待ちの大ボケに決まっとろうがよ(笑)。

身勝手極まりないんだけど、一方で女性への賞賛、敬意に満ちてる。ほとんど崇拝してる。創造性のすべてを捧げる、豊穣なイマジネーション。可憐に美しい女優だけでなく、母親や老女も、すべての女性に対する思慕。求愛。
サラギーナが踊る場面は凄まじく素晴らしい。髪を振り乱し、太い腕も足も剥き出し、豊満な胸や尻を揺らして踊る。どぎつくてきわどい姿なのに、この上なく清らかな聖性を湛えている。単にビッチな格好良さってんじゃなく、もっとも卑しいものがもっとも神々しい、的に。マグダラのマリア、なのかな。また、大地母神のようでもある。ニキ・ド・サンファルのつくる彫刻、大きな女「ナナ」みたい。
音楽がまた哀愁漂ってて、郷愁をそそる鄙びた風情の哀切。どことなくユーモラスでもあるんだけど、微妙に哀切な滑稽さ。

で、グイドの構想に関して脚本家が「基本構造の欠如」「思想性がない」「意味のないエピソードの羅列」とか言ってみたり、それってまさに今観てる真っ最中のこの映画、「8 1/2」のことですかねー、ていう感じで自己言及される。
そういうメタな仕掛けが随所に仕組まれてる。

ところで、実はグイドが「急に嬉しくなって力が湧いてきた」ていうところが、なんだかピンとこなくってよくわからないのだった。「人生は祭りだ、共に生きよう」ていう、有名な台詞んとこ。
いや、たぶんわかるんだけど、ぐっとコない、っていうか。

「君の過ちの集大成を見て誰が喜ぶ?」「 君の人生のゴミの寄せ集め」「あいまいな記憶と愛せなかった人々の顔」ていう、脚本家の言を逆説的なきっかけに、
「許してくれ ぼくは分からず屋だった。」
「君らを受け容れる。愛するよ。なんて簡単だ。」
「すべてが真実で輝いて見える」
あっけなく至る。

グイドを取り巻いて、彼の中に生きるすべての人々。
映画をつくる、映画を生きること。ひいては人生そのもの。
まさに今ここに居る自分へと向かう、生きて在ること、すべてへの祝福。歓喜。讃歌。

ていうことなのだと思うんだけど、今ひとつ腹に届かないというか、身体にコない。自分の喜びにならない。
何故かはよくわからないんだけど。たまにそういう、その表現のせいではないんだろうけど、コないことがある。
また別の機会に観たら感じ方が変わるのかもしれないんで、またのお楽しみってことで。



2013.3.31追記
何故自分の喜びとしてコないのか、ということについて。

わたしが女性で、しかもヘテロセクシャルなので女性が恋愛や性愛の対象にならないから、かなあ、とか思った。
「シルビアのいる街で」を観たとき、わたしはこんなふうに女性を見つめたり追っかけたりしないなあ、世のヘテロセクシャルの男性やレズビアンの女性はこんなにドキドキしながら女性を見つめているのかちら。ふう~ん。などと思ったのですね。
でもって、自分がこのように見つめられたり、後をくっついて来られたら(ちっと薄気味悪い)、とか眼差しを送られる側としてどう感じるか、と思ったわけだ。

つまり、わたしは女性を客体化して観ることができない。自分ごととして観てしまう。

で、「8 1/2」の主人公グイドの言動、特に女性に対する態度に共感できず、むしろ眼差される女性たちの側に立ってしまう。わたしはグイドになれない。
なので、最終的にこの映画の中を生きるような実感に至らず、鑑賞者にとどまってしまうのだなぁ。ていうことかと思った。どうだろ。






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コメント 3

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お鈴

私も先週新宿で観てきました^^
印象が鮮明なうちにシロタさんの81/2レビュー拝読できて嬉しいです。
最初の悪夢のシーンを大学入りたてに授業で観せてもらったのですが、
そのあと個人的に挑戦してみて眠気に襲われました。笑
(でも退屈とかではなくいい意味で眠くなる映画ってありますよね。笑)

なのでこの度ちゃんと観て、こんなコミカルな話だったのかと思いました。笑
妻と愛人が談笑してそれをニコニコ見つめるとか
ハーレムシーンが呆れるやら笑えるやらで…。笑
でもマストロヤンニ色男だからいっか。。と思ってみたり。笑

なるほど、女性そのものへの大きな賞賛、敬意があるから、
ったくしかたないわねぇ〜。って思えるんでしょうかね。笑


>サラギーナが踊る場面は凄まじく素晴らしい。
>どぎつくてきわどい姿なのに、この上なく清らかな聖性を湛えている。
彼女の存在感凄かったですね。。!
海を向いている(?)彼女が振り返って、
チャオ…というシーン、格好良かったです。



NINE評判かなり微妙みたいですね^^:
私は個人的にシカゴがあまり好きではないので、
(ピンポイントでは好きなんですけれど…)
どうかな〜と思ってたんですけど、
新宿でフェリーニ観るのを優先することにします。笑

そうそう、81/2につっこんだシロタさんにぜひ
フェリーニの『アントニオ博士の誘惑』をおすすめします。^^
学校のイタリア映画をみまくる授業で観せてもらったんですけど、
もーおバカおバカで最高でした☆笑
『ボッカチオ'70』というオムニバス作品のひとつで、
レンタルでなかなか見かけないのが残念なのですが、
(みかけてもVHSだったり…><)
ヴィスコンティがシャネルを着こなすロミーシュナイダーを撮ってる作品もありますよ☆素敵でした^^
機会がありましたらぜひ☆


by お鈴 (2010-03-24 21:28) 

ベタ子

こんばんはー^^
『NINE』観る前にコレ観たいんですけど、近所のツタヤには置いてないみたいです。無念。
映像観れてよかったです。ありがとうございます。

白黒なんですね・・かなり古いな。寝るかもしれない・・^^;
(邦画で私が見た映画で一番古かった『浮雲』は4度目のチャレンジで最後まで観れました)

ORLINさんと同じで、私も実は『シカゴ』があまり・・・だったので、どうなんだろうと思いました。
『ヘアスプレー』でグッときたクイーン・ラティファ観たさだったのですけれども、該当シーンもあまり響かなかったですね・・・彼女はやっぱりゴスペルがいいなー^^

しかし、散々ですね。レビュー。
予告では楽しめそうだと思ったのですけどねー・・・まぁ、“楽しい”が溢れてる映画ではないことは心得て、もうちょっと映画館が空いた頃に観にいこうと思います♪

>髪を振り乱し、太い腕も足も剥き出し、豊満な胸や尻を揺らして踊る。
こういうのに、私自身がカッコイイと思えないんですよね。だからシカゴもピンと来ないんだわ^^;
by ベタ子 (2010-03-24 23:40) 

シロタ


>お鈴ちゃん

名作とか傑作と言われる類いの格の高さとか、難解っていう言も見かけたんで、妙にハードル高かったんだけど、素直におもしろくがっつり楽しめました。
ほんとに優れてイイものは、無闇にエラそげに威嚇したりしないですよね。

>なるほど、女性そのものへの大きな賞賛、敬意があるから、
>ったくしかたないわねぇ〜。って思えるんでしょうかね。笑

賞賛と敬意だけじゃたぶんダメだと思う(笑)。
愛敬とか可愛げみたいなものがキモじゃないかと。マストロヤンニだから、フェリーニだからまあいっか、みたいなところがあるような気がします。で、そういうの、イタリア男ってよく心得てる気がする(笑)。

『アントニオ博士の誘惑』『ボッカチオ'70』お薦めありがとう!
ぜひぜひ探してみます。



>ベタ子さん

レンタル屋さんではなかなか見かけないですよねー。わたしは図書館で借りました。昨今の図書館の映像作品所蔵は侮れないです。

「NINE」の予告はほんと楽しそうなんですけどねー。たしかに、「8 1/2」観てからの方が話の筋立てとかはわかりやすいと思います。

>>髪を振り乱し、太い腕も足も剥き出し、豊満な胸や尻を揺らして踊る。

このサラギーナは、ビッチな格好良さとか軽く通り越しちゃってて、ほとんど妖怪とかお化けの類いに近いくらいのすさまじい身なりなんすよ。で、そんな女が限りなく崇高に清らかに見えてしまうのがすごいです。

機会があれば、ぜひ観てみてください。おもしろいですよ。


by シロタ (2010-03-26 12:51) 

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