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「きらきらひかる」江國香織 [書籍]

江國香織は、正直言うと、“スイーツ(笑)”で片付けたいところなんだが、そうもいかないところが恥ずかし悔しい。
ていうかねえ、甘くて華奢な文章とか、オシャレでスノッブな趣味満載とかについ油断させられるけど、この人の書く話って基本的にアナーキーだと思うのな。

この人がブレイクしたきっかけの「きらきらひかる」は、ゲイセクシャルの夫・睦月とアル中気味で情緒不安定の妻・笑子との結婚生活っていうお話。

睦月も笑子も、睦月の恋人・紺もそれぞれフリーダムなんだけど、三人ともなにかしら自分の正義とか良心とか倫理みたいなものを貫き通している。貫こうとしてる。
だから我が儘とか手前勝手な無茶苦茶さではないんだけど、三人の姿は他愛なく、あやうく儚げにうつる。彼らのフリーダムがそれこそ他愛なくどうでもいいようなものとして抑圧される気配があるから。

両親たちや、笑子の親友の瑞穂とか、所謂“まっとうでフツーな”人たちの描かれ方が凄い。睦月笑子にまったく理解を示さず、きっぱり善意で悪意はさらさらなく、無自覚に暴力的な言動で「フツーになれ」と主人公夫婦を追いつめる、そのヘルシーさの気持ち悪いこと暴虐なこと。

瑞穂の台詞、
「子供つくればおちつくって。(後略)」(p.79)
「いつまでも情緒不安定じゃおばさんたちが安心できないし、睦月さんだってかわいそうよ」(p.79)
「何のために結婚したの」(p.79)

睦月の母親の台詞、
「相談してみたらどう、人工授精のこと」(p.28)←この時点で、結婚してまだひと月足らず。
健康な女性なら当然考えることなのに。(p.29)
「あなたが笑子さんから女の幸福をとりあげてるんだと思うと、お母さん辛いのよ」(p.91)

キショっ。キショいよ。
まあこれがキショくない人は江國を“スイーツ(笑)”って馬鹿にできるんだろうけど。

他の作品に比べると「きらきら…」は、かなり毛を逆立てて抵抗してるというか、過ぎるくらいに真っ正直な、意固地な頑張りがあるように思える。
「ホリー・ガーデン」の果歩ちゃんも相当意固地だけどね。


恥ずかし悔しがりながら江國を読むのは、こういうアナーキーさに感じ入るところがあるから、なのかなーと自己分析。
まあアナーキズムってほど大げさなことではなくっても、どこかうまく世界に馴染めなくて、抑圧を感じている人々の視点があって、で、その人たちの意固地や不器用さみたいなものが好きなようです。






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コメント 4

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Y

先日はどーも。この本、ずいぶん前にすすめられて読んだわ。
あーそんな内容だったとブログ見て思い出しました。
あの頃と私も状況が変わっているから、今読んだら違う感想を持てるのだろうか??
by Y (2010-06-03 11:53) 

シロタ


コメントありがとう。
日々、お疲れさまです。マジでお疲れ。
こないだはキンチョーしたわー。子ども相手すんの慣れてないから、何がどうなるのかハラハラし続け(笑)。でもおもしろかったっす。

「きらきらひかる」は、ちょうどその頃、自分の心境として抑圧母親がひじょーにキショかったので、母親に送りつけようかと思った書籍なのでした。
だってさー、独り住まいアパートをあんまり哀れみまくってウザいんで放っといてくれ、って言ったら逆ギレして、「それならば、誰もが羨む優雅な独身生活とやらを築いてみるがいい!」ていう呪い文が送りつけられてきたんすよー。キショいでしょ。笑

今読むと、両親ズや友人の描き方がなかなかにアグレッシブで、江國さんも若かったのねー、などと思う。毛が逆立ってる。
今ならもうちょっと巧くやれると思うけど、やっぱり主人公夫婦に肩入れしちゃうかな。


by シロタ (2010-06-04 10:30) 

Y

ついでにおすすめされた、「母が重くて~」も今さっき読み終えた。

貸してくれた人がちょうど団塊世代の人(スクールカウンセラー)だったので、「この作者も昔は「母に謝ってもらえ」ということを書いていたんだけど、年をとったのか丸くなったね」と言っていた。

若さはエネルギー、怒りもエネルギー。

老いて丸くなるのではなく、単にエネルギー不足で怒れなくなっただけなのかも知れん。

またきてね。
by Y (2010-06-05 02:10) 

シロタ


そーか、確かに怒りを持続すんのって疲れるわ。精神的な体力食われますな。

ま、年食うと体力的に落ち着いてくるのもあんのかもしれないけど、怒りへの対処が巧くなると思う。
怒りのエネルギーの振り向け方や取り扱いがこなれてくる=まるくなる、なんじゃないかな。などと。

あと、怒りまくっていい加減気が済んだ、とか。笑。
信田さよ子の他の著作は知らないけど、「母に謝ってもらえ」ってのはそーとーですな。カウンセラーとしての発言とは思えない。笑。
けど、一度そうやって吐き出す事が必要だったのかもしれなくて、で、それを経たからこそ「母が重くて〜」で母親たちの境遇に一定理解を示す事ができるようになった、とかさ。勝手に推測。

わたしは怒り過ぎてその怒りが自分に向かってデプレッションになって、これがまだ気が済んでないっぽいんだよな。まだ怒ってます(笑)。
まるくはなってるけど、怒りの総量は全然減ってない。実感として。


また遊びに行くんで、語らいましょう。
コメントありがと。


by シロタ (2010-06-06 01:47) 

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