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「告白」 [映画]

すんごい悪趣味。品性下劣。
少年犯罪とかHIVとか熱血先生とか学校社会とか親子とか、真面目に扱えば朝ナマ級(朝ナマだって別にたいした実のある議論になっちゃいねえが)の激論間違いなしの社会問題が、やっすい小ネタ扱いの薄っぺらさで犯人の動機とか復讐の小道具にされてる。不謹慎極まりない。
レイプとか難病とかシャレになんない深刻な事象を「マジ泣けるー」とか絵文字付きのスカスカな感動に消費してしまう「恋空」「セカチュー」並みの安直さ。浅薄短慮。
つか、もともとの原作からして安直なんだけども。

初っ端、先生の話を聞かない生徒たちの演出からして、うっわー、て鼻白む。“13歳のガキなんてこんなもんだろ”的な決めつけの上っ面感満載。
“教師としてどうのこうの”とか言いながらヘーゼンと少年ABを教室リンチにかける森口先生のやり口に、あーこりゃ逆恋空だろ、に決定。「マジ泣けるー」が「マジエグいー」とか「マジこえー」に代わるだけ。人の情動の深淵とか人間ドラマを期待するシロモノではない。

ウェルテル先生の描写にものすごい悪意を感じて、毒気の強さにあてられた。そこまでやるかよ。
まあね、クソ生意気な中学生とか熱血教師を熱烈に信奉する輩とかウザい母親とか、確かに鬱陶しいけどもよ。
ほんとに、そこまでやりますか。
直くんへの色紙メッセージに被さる「幸せになろう、イエー!」みたいなサハヤカ青春映像に心底血の気が引いた。
怖いよ中島怖いよ。

えーなんかもう、こんなんで延々毒吐かれる訳なのかよー、とげっそりしておったら、途中からモリモリおもしろくなってきた。(↓一応、ネタばれ回避文字色反転)
流血がステキで堪らん。階段脇の真っ白い壁にジャクソン・ポロックな流血アート。超かっこいい画ヅラで鈍器を振るう中学生、返り血スローモーション、プールに放り込まれる幼女、繊細な水飛沫。
不謹慎極まりないステキ猟奇。
登場人物の誰っにも感情移入できない、っつかどいつもこいつも屑なので、屑が酷いめにあうのがおもしろくなってきちゃうのな。

出色は松たか子。

+   +
  ∧_∧  +
  (0゚・∀・) ワクワクテカテカ
  (0゚∪ ∪ +
  と__)__)   +

ってアスキーアート使いたくなるくらいのどきどきわくわくイキイキウキウキな悪意全開。
「どっかーん!」の台詞んとことかうっかり拍手しそうになった。
黒いわー。まっ黒くろだ。

という訳で、ものすんごい悪趣味で下劣で悪意満載ながら、すっかりおもしろがってしまったことよ。
テーマやモチーフの扱いはほんと不謹慎でオニくだらないから、こんなもん観て(読んで)、大切な人を殺されたら自分だったらどうするだろう、とか、命の軽重とは、とか考えちゃいけません。
「マジありえねっしょ」とか若者ぶってせせら笑うのがちょうどいいくらいじゃないすか。

つーか、悪意とか毒気の苦手な方は中島哲也を観ちゃいかんです。


中島哲也って、キホン悪意のひとだと思うのね。
善良さとか明朗さに照れて悪ぶる偽悪趣味じゃなくって、まんま悪意。デフォルトが悪意。
ただ、ヘンに公正なところがあって、対象(原作とか役者とか観客とか)に対して、俺の悪意と勝負しろ、みたいなんがあるのかなーと思ったりする。
で、結果的に対象が悪意で磨かれた表現に至るんではないかと。

「嫌われ松子の一生」での、松子への悪意、容赦なく馬鹿を馬鹿にするエグさ。終盤では松子=中谷美紀にほだされてほろっとくるエンディングを挿しちゃったりしてるけど、そういうとこは中島の悪意が負けてんだと思う。

「パコと魔法の絵本」の悪意は、巧妙に観客に向いてる。“不運な事故&天涯孤独&不治の傷病のかわいそうな子”って、あんたら好きでしょうw? 感動ーとか泣けるーとかそういうの観たいんでしょうw? ていう。で、まんまと泣かされて悔しい。ちっ。

「下妻物語」も、実は悪意満載かと思うんだけど、そう見えないのは中島の悪意が負けちゃったから。悪意で馬鹿にして描こうとしても、対象の魅力が圧倒的に勝っちゃってる。なによりイチゴ=土屋アンナに完敗。

んでね、中島自身も、“最終的には中島の悪意が負けてしまう表現”を目指したいんじゃないのかなーと思うんだけど、そこはどうなんだろ。
「告白」は、中島の悪意が完全勝利してしまってんだと思う。それでいいのか甚だしく疑問。

ていうか、湊かなえの原作に含まれてる悪意も結構な毒気で、そもそもが勝負になんない原作だと思うんだけど、なんでコレ映画化したかね。
おもしろいちゃおもしろいけど、少年犯罪やHIVなどの地雷をおもちゃに扱う必然性はまるっきりなくってただ不謹慎なだけ、その不謹慎を措いても超絶おもしろいってほどのことはなく、もっと真摯なテーマで穏当におもしろいものはいっぱいありそうだと思うが。
なんかねえ、ネタにマジレスw(冗談とか、シャレでネタにしたのに本気で受けとってガチで返事してしまうことを揶揄する意)な感もある。

もしくは、中島の悪意はもっと強い権力者に向かえばよいのに、と思う。
要するにトレイ・パーカー&マット・ストーンな方向に向かってくれると、もっと遠慮なく毒々に悪意炸裂できるだろうし、観てる側も心置きなく爆笑できる。んじゃないかなー、と。







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コメント 9

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ゆみち

シロちゃん、ご覧になったんですねー『告白』。

私も昨日観てきました。いやーなんつーか、凄い不謹慎極まりないというか、
この映画は完全にエンタメファンタジーですよね?

これで“もし自分の子だったら”とか“私だったら”とか、絶対ありえん。

シロちゃんの仰る事にうん、うんと納得しまくりです。
by ゆみち (2010-06-10 11:37) 

エンジェル

>結果的に対象が悪意で磨かれた表現に至る

「美しい悪魔」とかと同じですよね~。
悪そのものには、<平たい地球>の魔王アズュラーンのように、人は魅入られてやまなかったりする。
対して天使とかは画一的な美だったりとか。(まぁそれも人にとっては美の対象なんだけど)

【告白】のキャラは「人の悪意」ってもんの抽象物として撮ってんのかな、と思いましたです。
フザケンナ、と言いたいけど、言えない自分がいる。
原作はラストを飾る森口の論理の破綻によって、「バッカじゃないの?」と絵空事にできたのに、
映画では最後の一言によって、こちらの想像を刺激してしまう。
「もしかして、さ…」って。
でも、それこそが「悪意さえも自己正当化してしまうヤツ」ってもんを揶揄されてるようでたまらない。

いや、それでも(監督の悪意にグサグサ刺されても)、ワタシは善意を支持するけどな!(笑)
by エンジェル (2010-06-10 12:31) 

シロタ


>ゆみちゃん

ねー。絶対ありえんよね。
まともにうけとるお話じゃないと思うですよ。
なのに、深淵で重大なテーマを扱ってるふうに思われてんですかねえ。

結構おもしろがって観ちゃったけど、やっぱり「下妻」のほうが好きだな。




>エンジェルさん

いえ、悪や悪意そのものへの魅了とはまた別で、
中島の悪意に対抗しようとする、

>(監督の悪意にグサグサ刺されても)、ワタシは善意を支持するけどな!

ていうパワーが原作や役者から引き出され、そのぶつかりあいによって表現が研磨されるんじゃないかなーと思った訳なんですよ。

“悪だろ?嫌だろ?黒いだろ?”と徹底的に追いつめられる中で、どのくらいの覚悟で“いいや!世の中いい事もあるし美しいこともあるし!信じる!”と言えるかが試される。
その鍔迫り合いによって研ぎすまされる倫理感の高さが、中島の悪意を救うんだと思うんです。

「告白」はそういうぶつかりあいが感じられないです。中島の悪意がダダ漏れ。

>「人の悪意」ってもんの抽象物として撮ってんのかな

だとしても浅い気がするかなー。
フザケンナて言うほどの重さすら感じないです、わたしは。

憎悪とか怒りとか、自分でも制御できないほどの悪意に衝き動かされる、悪意に酔いしれてしまうほどの黒い黒い気持ち、その昏い衝動はわたしにもあるし、ときに否定し難く魅力的ではあるけれど、それはこんなショボくてくだんねーお話に託される程度のものではないです。

悪意ということをどれほど突き詰めて考えたのか、と問えば、「オールドボーイ」とか「親切なクムジャさん」とか(これらもそんなに感心する表現ではないけど)に比べるべくもなく劣りまくる。

松たか子の最後のひと言は、「なーんてウッソぴょん」だと思いました。
端的に言って、フザケテルと思うんです。
わたしの感じ方ですけど。

by シロタ (2010-06-10 16:55) 

お鈴

親からずいぶん前に勝手に送られてきた『告白』を無視してる上に、
映画の知識もないので的外れなこと書いていたらごめんなさい^^:汗


中島監督って悪意の作家なのですか。
『下妻』と『松子』しかみてないのでわからない私がいます^^:汗
(『パコ』めちゃくちゃ盛り上がってましたけどピンとこれなくて
 まだみてません^^:)
たぶん中島作品に呼ばれてないんだなぁ…。^^:笑

『告白』も『松子』みたいに
モラルで観ずに、Madなぶっ飛び加減に、笑うような作品なのでしょうか。


>“13歳のガキなんてこんなもんだろ”的な決めつけの上っ面感満載。
あはは、笑
私がローティーンの時に観てたらかなりムカついたかも知れないです。笑


私がこれくらいの年齢のときって、ちょうどバスジャック事件とかが起きまして、
『17歳少年』やら『14歳少年』はいきなり誰か(親とか)殺すよ!逃げろ〜!
みたいな大人達の雰囲気を感じてたんですよねぇ。呆
同じように括られるのにかなり腹が立っていた覚えがあります。笑


バトルロワイヤル騒動があったのもこの頃だったかなぁ。
ビビって閉め出そうとしてる人たちを観て、
もー勝手にしろ。勝手に怯えてろ。
と思っていました。
そうやって最初から信頼しない大人が最初に刺されるんじゃないの?
なんて思ったり。(生意気。笑)


『告白』の中学生もそんな
何考えてるかわかんないモンスターとして描かれてるんでしょうか?
だったら観ることは出来ないかも知れない私がいます。。^^;汗
by お鈴 (2010-06-10 20:47) 

エンジェル

あ、なんかシロタさんのを読んでて、
あと、今読んでる伊藤計劃のエッセイみたいなのと繋がったとこがあるなぁ。

うーん…うまく言えないんだけど、
誤解を恐れずに言うならば
>悪意に酔いしれてしまうほどの黒い黒い気持ち
>悪意ということをどれほど突き詰めて考えたのか
このセンシブルな視点、前述した伊藤計劃で言うなら「虐殺器官」の主人公にも通じると言うか
それでいくとワタシはウィリアムズだな、と納得したというか。

>「告白」はそういうぶつかりあいが感じられないです
それは確かに、なかったですね~。
ぶつかり合ってたのは、完全にワタシの感覚内でしかない。
デフォルメされた中に埋もれてる小さい種のような部分を取り出して観たような感覚かな?^^;

んー、そうか、あ、ヒノキオさんが言ってたのも、シロタさんのに近かった気がする。


…って、すごい支離滅裂なメッセージでごめんなさい。(汗)
今、アタマの中でいろんなことが飛び交ってる…(爆)
【告白】、みんなの感想をじっくり読んでる方が、映画より原作より非常に興味深い~。
by エンジェル (2010-06-10 21:18) 

シロタ


>お鈴ちゃん

わたしも自分が中学生だったらムカついたと思うなあ。
でも別に“これが今の中学生ですよ!”ていう理解者ヅラはしてないので、そこはマシに見られるかな。
それと、あくまでも“ヤバい中学生たち”っていうお話上の役柄であって、演技・演出の誇張であることは感じられる点は誠実。
って、庇ってみたけどどーなんだろう(苦笑)。自信ないや。

>『17歳少年』やら『14歳少年』はいきなり誰か(親とか)殺すよ!逃げろ〜!
思い出した。あの頃ヒドかったねえ。
お前ら10代だったことないのかよー、て言いたくなるような排除・排斥な雰囲気が気持ち悪かった。

10代のコたちと学者やジャーナリストが話し合うみたいな討論番組だったかな、「大人になったらいいことありますか」とか「どうして人を殺したらいけないんですか」とか質問が出て、誰っっっっっれもそれに答えずに、「ほーらこんな質問する10代はどーのこーの」って分析ごっこが始まっちゃって、いやもー気色悪かった。
聞いてるんだから答えろよ。お前の頭ん中の10代じゃなくって、目の前にいる10代と対話しろよ。

「どうして人を殺したらいけないんですか」っていう問いは、別に人を殺したくって尋ねてるんじゃなくって、「どうして人は生きるんですか、生きる理由ってなんですか」っていう根源的な問いに繋がってたりして、で、10代の頃ってそういうこと考えたりするじゃん。とりあえずわたしはそうだったから、そう思ったんだけどね。
そういうことを話し合うチャンスなのに、目の前に大切なことを聞きたがってる相手が居るのに、誰も見てない。
まあそもそもが討論番組なんて糞だけどね。


中島哲也の悪意は、「松子」に顕著だと思ってんですよ。
中島は主人公の松子を悪意で馬鹿にしまくってると思うのね。
>モラルで観ずに、Madなぶっ飛び加減に、笑う
そうそう。「松子」の笑いは相当黒いよね。

ところが、中谷美紀の頑張りとか、甥っ子の目線とか、原作のお話自体に生きている松子の魂みたいなものが、中島の悪意に対して抗おうとする。
その精一杯の抗いが、表現を磨くというか、訴えてくる力を宿らせる。サディスティックなやり方でもある。
中島の悪意は、逆説的な倫理の追求とも言えます。…と思います。(ちょっと弱気。笑)



by シロタ (2010-06-11 11:33) 

シロタ


>エンジェルさん

いえ、わかります。と思います(笑)。

わたしが常に気になっている、大げさに言えばシロタのテーマみたいなものとして、倫理ってことがあるんだな、と最近気づいてみた。
倫理とか正義とか良識、良心、みたいなことにこだわらずにいられないんだなー、と。

それは、自分の悪意とか憎悪とかダークな気持ちを克服したい、っていう気持ちからきていて、どうすれば克服できるか、そのための倫理を追求したいんだと思う。
だもんで確かに「虐殺器官」の主人公はキますキます。うんうん。ていうか、アレックスかもしんない。

by シロタ (2010-06-11 11:36) 

トビタ

告白、今日見てきてサイト巡ってたらここに来ちゃいました。
ちなみに今15歳です。

>“13歳のガキなんてこんなもんだろ”的な決めつけの上っ面感満載。

あんな友達というかクラスの人達ばかりだったらきついな。
実際たまには瞬間的に色んな事であんな雰囲気になる場面はあるし、
無関心な子もいれば好きな子もいるから。
ただ画一的にとってある映画見て、あんまりムカついたりしないかも。
そういう風に撮ってあるねーくらい。

だって物心?というか小学生くらいの時から
ちょっと上の歳の人がたまにニュースになったりしてたから。
だからバスジャックとか、少年にナイフとか?
あの歳でなんで?じゃなくて、なんか色々あったんだろうなーという感じで。
違和感があんまりないので。学生の犯罪に。
だからこういう見方で撮った映画でもムカつかないのかなと思いました。

by トビタ (2010-06-20 01:23) 

シロタ


トビタさん、コメントありがとうございます。

ムカつかないのは何よりです。よかった。

>そういう風に撮ってあるねーくらい。

っていうのは、適切に距離をおいて受けとれるってことで、それってすごくよいことだ、と思います。

わたしの場合(20年くらい前かな)、学校も管理教育ガチガチで抑圧が厳しく、なにかにつけていちいちムカついてましたんです。
「ぼくらの七日間戦争」のあたりが雰囲気。トビタさんご覧になったら笑っちゃうかも。


by シロタ (2010-06-21 11:49) 

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