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「BIUTIFUL ビューティフル」「生きる」 [映画]

いっつもイリャニトゥかイニャリトゥかわかんなくなる、イニャリトゥ監督作。
「BIUTIFUL」公式webサイト(音注意。予告篇が始まります)

前作「バベル」に大変ググッとキたし、タニプロさんの絶賛も気になるし、で観た。
インスパイアされた作品であるらしい「生きる」も観た。

「BIUTIFUL」
BEAUTIFULのスペル間違いが愛らしくって好き。
タイトルにもってきてる割にそんなに重大な扱いがされてるわけでもないんだけど、その他愛なさがまた好ましい。
美しさ、っていうよりも、ささやかな善きもの、って感じ。
一家でアイスクリーム食べるとことかも、なんてことないんだけどほっこり明かりが灯ったみたいに印象に残る。


それにしても、まー濃ゆい濃ゆい。
どなたもこなたもぐっつぐつに煮詰まって進退窮まり、で、進退窮まってる故に選択肢は狭められ、さらに困り果てるっていう、おそろしく気の滅入る展開。
なんと愚かしいことよなあ、とか思えてしまって、そんなふうに思うのも端から見てるだけの傍観者視点・上から目線だからなんだけど、実際のとこ、端から見てるしかなくって、そのやりきれなさにもじわじわクる。

ただ、不思議なんだけど、濃ゆいわエグいわぐつぐつなのに、どこか突き抜けて透徹した諦観みたいなものが感じられて、妙な具合に後味は悪くない。胸焼けしない。
ラテンの濃ゆさ+東洋的な無常観みたいな。

「21g」では、それでも人生は続く、っていうことの苛酷さにぎちぎちキたけど、「BIUTIFUL」では、それでも人生は終わる、ってことの無常を思った。

どれほどつらく苦しくても死ぬまでは生きなくちゃならない。
どれほど心を残しても、留まることはできない。去らねばならない。


マランブラかーちゃんがよかった。
なんかちょっと困った人なんだけど、責める気にはなれない。単にダメ人間と、切って捨てられない。
ていうか、マランブラに限らず、主人公ウスバルも胡散臭い兄貴も、アナもマテオもリリもイヘも痴情のもつれまくる中国人元締めも誰もかも、体温があって血が流れてて、生きてる人間の存在の重さがずっしり伝わってくる。

昨今、インタネットが特に顕著だけれど、メディアを通した映像や文言だけの人間を見聞きしていると、ものすごく簡単に「ダメ人間」「死ねばいいのに」「出ていけ」とか言えてしまうのな。

「BIUTIFUL」に出てくる人物を見ていると、そんな簡単にいかないことが腹にこたえて実感する。
死ぬっていっても、死ぬまでは生きなくちゃならなくって、生きるには食ったり稼いだりしなくちゃならない。
反吐を吐いたり糞尿垂れたりもする、きれいなばっかりじゃない、生身の人間が生きてることの重さ。

腐ったゴミ溜めみたいな世界で。

BIUTIFULな、ささやかな善きものが偶に在るかもしれない。
でもそのことも別に世界を変えたりはしない。

全然美しくはない。
でも別に構わないでしょ。
美しかったり素晴らしかったりしなくちゃならないもんでもないでしょう。





「生きる」
すげーおもしろかった。
余命幾ばくもないと知った主人公のおじさんが、それまでの生の実感に乏しい人生を悔やみ、自らの意志でやりたいことやるべきことをやり通そうと決意する。
ていう、どってことないお話なんだけど、めちゃくちゃおもしろい。

胃ガンが見つかってがーん!てショックうけたり、自棄になって散財しようとしたものの散財の仕方・自棄のおこし方もわからなかったり、刹那的な振る舞いを女遊びに疑われたり、変貌ぶりを周囲に訝しまれたり、あれこれな様が、いちいちおもしろい。ユーモラスに笑えるとこもある。

クラブで「ゴンドラの唄」を歌うとことか、沁みる。
「誕生日おめでとう!」の喝采が主人公の決意に重なるとこは鳥肌がたった。新たに生き直そうとすることへの祝福がじーんと胸アツな晴れがましい場面。画の動きがまた絶妙でシビレる。

その後の頑張りの様子は、主人公の葬式の席で事後談として語られるのも大胆な作劇でおおーと思った。
コレがじわじわクる。
主人公の行動に不可解・無理解だった周囲が、いくつかのエピソードが重ねられるとともに徐々に、ただ一度きりの生に全力で向かっていた姿を知る。その当人の葬式の席で。


生を愛おしいと思えてくる。ちょっと違うけど、「アメリカン・ビューティ」とか観たくなったな。
なんだか元気が出てくる映画。

「BIUTIFUL」にも、ちらっと引用っぽい場面があったのかなあ。橋の上で夕焼け見るとこ→夕暮れ時の歩道橋で電話するとこ、とか。あんま関係ないかな。



それにしてもこんなふうに、余命いついつ、とかって告げられるのはなんかちょっと羨ましいような気もする、とか言ったら不謹慎かな。いや、そりゃ大変なショックなんだろうけど。

ていうか、たまーに、あとどんくらい生きなきゃなんないんだろう、って、先行きのわからなさに途方に暮れたりするような心持ちのときがあって、そういうとき、終わりが示される、ていうことに憧れたりする。いついつまで頑張ればいいよ、もうすぐラクになれるよ、みたいな。
って、オマエ普段いつもそんなに頑張って全力で生きてるっつーのかよ単にヌルい現実逃避ってだけじゃねーのと言われればそうですねすいません。








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コメント 2

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タニプロ

「生きる」は黒澤明監督の映画でもベストという人もたくさんいるほどの、超名作ですからね。オレも大好きです。

が、しかし!今年の(オレが観てる範囲内での)外国映画最高峰は、イエジー・スコリモフスキ監督「エッセンシャル・キリング」とロマン・ポランスキー監督「ゴーストライター」に決定!観ました?

これぞ「映画」というものをまざまざと見せつけられました。あまりに凄い。






by タニプロ (2011-10-08 17:49) 

シロタ


わわわ。返信遅れてすいません。
コメントありがとう。

「生きる」すっごいおもしろかったですよ。
「BIUTIFUL」は、言われないとオマージュ作だとはわからなかったかも。
これもよかったですが、さらにさらにお薦めなんですね。
これぞ映画、とはこりゃまたそそられる。

しかしスコリモフスキってすごい名前ですね…。


by シロタ (2011-10-14 11:21) 

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