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「シリアの花嫁」 [映画]

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「シリアの花嫁」公式webサイト予告編がみられます。

友人に誘われて試写会でみたんだけど、これがもう、すっごくよかった。感謝。

冒頭。舞台となる街、ゴラン高原のマジュダルシャムス村の街並や高台からの眺望を背景に、女たちが結婚の支度に向かう。

この、街の佇まいがとてもよくって。
暮らしている人たちの気配とか存在感があちこちに刻み付けられていて、街全体が生きている感じ。
なんとかヒルズみたいな人工的につくられた街とは違って、なまなましく脈をうって、息をしてる。
街のキャラがたってるっていうか。単なる背景ではなくって、この街も重要な登場人物のひとり。

結婚して街を出て行く娘、送り出す家族。
生まれ育った街を離れるのはせつない。特に、こんな街と別れるのはとびきりせつない。
それだけでもぎゅーっと胸にクるっていうのに、花婿は写真で見たっきりのよく知らない相手、軍事境界線を越えて里帰りもままならないところに嫁ぐという。
いったいどういう困難な政治事情で抑圧された陰鬱な話なのかと身構えてしまうんだけど、案外に淡々と話はすすむし、微笑ましく笑えたりもする。
自分のぶんまで、むしろ自分のためにこそ、と、妹の幸せを願う姉。頑固で一国者の父と、父に認めてもらいたい息子。
家族だからこそ、わかってほしくってぶつける思いがあって、国や政治や宗教が違ってもその気持ちは同じだから、余計に心に響く。

そんな身近でありふれた家族のお話に、国境を巡る政治の事情が掠める。
境界線を挟んで手を振り、拡声器で言葉を交わす、そんなことがすっかり日常になってしまっている、滑稽で不幸な風景。
本当に、なんて馬鹿馬鹿しいんだろうって思う。
日本人のわたしはむしろ国境に守られていることが多いのだろうけれど、それでも、国境は糞だと思った。

心打たれるのは、誰もがこの地を愛していること。
愛そうとしていること。
全然憎んでないし、諦めていない。
面倒で馬鹿馬鹿しい、滑稽な不幸をもひっくるめて、この地に暮らすことを愛している。
立場を違えたイスラエル側の行政官吏も国連職員も、冷たい役職の仮面の端から人の情を覗かせ、花嫁のために奔走する。
誰もが花嫁=ゴラン高原の幸せを願って止まない。

惜しみない愛情のトーンが全編をゆるやかに貫いて、人々と街の姿をあたたかく映し出す。
せつないけれど、不思議に心満たされる。







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