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「接吻」 [映画]

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「接吻」公式サイト

甘美。
あまりにも甘くて、眩んでしまう。

接見室で向かい合う坂口と京子。
相好を崩して、ごくごく自然に言葉を発する坂口の、その声が。
笑ってしまうほど、甘い。

清姫、お七、サロメ、そして、京子。
狂える女の系譜は、脊髄まで蜜漬けにされるような甘美な瞬間を起源に顕現する。
あまりの甘さに、狂うのだ。

それは、いつ、どのように訪れるかわからない
笑顔かもしれない、声かもしれない、匂いかもしれない、何気ない仕草かもしれない。
どんなに身構えてその瞬間に備えても、無駄。
誰しもが、いともあっさり攫われて、狂える女の仲間入りをするだろう。
モニタにうつった坂口の笑顔、京子はその瞬間にとらわれてしまった。

京子は、おそろしく明晰に狂っていく。
その躊躇いのなさ。
諄々と穏やかに進行する狂気。
京子は健やかに狂気を極め、正しく狂い終わり、まっとうに破滅する。

必死に手を伸べる、長谷川のお莫迦さん。
この期に及んで、正気なんてなんの役にもたたないのに。

「わたしをどうにかしようなんて思わないで」
甘美なカタルシス。
高揚とともに、はればれと胸がすく。
ものごとが、あるべきところに、あるべき姿でおさまる、その正しさ、確かさは、なんて眩しいのだろう。
明瞭で明晰であるということは、なんて快いのだろう。
なんて、気持ちいい。
たとえそれが狂気の姿であったとしても。


京子の存在を得て、わたしはいよいよ現実の社会に属することができる。
カタルシスを経て、わたしは狂わずに安穏と生きていくことができる。

映画の帰りにデパ地下に寄ってコロッケを買って帰る。
こんな凡庸な平穏の底には、京子と狂える女たちがアンカーを降ろしている。

その存在が強固であればあるほど。
平穏は保たれる。






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