「東京物語」 [映画]
“地方”から“上京”した者は、真空の東京にバキュームされて乾かされる。
水分を失い、かつてないほど身軽になってみて、“田舎”の瑞々しい情感とやらはひどく湿気ってまつわりつく鬱陶しい重さでもあることを知る。
カラっと乾くことは、晴れ晴れと気持ちがよいものです。
原節子がニコニコしてんのが怖くて仕方がない。
この人が出てくると、寒くて凍えそうになった。はたはたと団扇をつかう夏の風俗でありながら、ちっとも暑さを感じない。
笑っちゃうほど現実的な長女が出てくるとホッとする。「イヤんなっちゃうなぁ」って、かわいげがあってイイ(笑)。
大阪に住む三男には水気が残っている。
「孝行したいときに親はなし、さりとて墓に布団は着せられず」と嘯くほどには。
物語終盤、きょうだいが揃う尾道。
尾道に暮らしている次女には、兄たちのドライさが理解し難く、憤る。
それをなだめる原節子。
怖い。
そして、一撃。
「わたしは狡いんです」
激痛。
痛くて痛くて、ばらばらと泣ける。
一番乾いていたのはこの人だった。
固く冷たくフリーズドライの真空処置を施されて、ようやく過ごしていたのだった。
義理の両親に優しく振る舞うことで、乾いている自分を確認していた。
一方でふたりが伴ってきた尾道の湿度に触れ、蘇る傷みを感じていた。
東京では耐えられた。
けれど、瑞々しい情感を湛える尾道では、脆くほとびて崩落してしまう。
寂しい、ってことは、なんて痛いんだろう。
東京はとても冷たい。
とても優しい。
真空の都市。
小津安二郎のモチーフは「壊れていく家族」を描くところにありそうに思っています。一見ほのぼのしているように見えて実は冷徹な視線を感じます。静かでありながら結構きつかったです。
by shim47 (2008-11-04 02:00)
shim47さん、nice!とコメントありがとうございます。
>一見ほのぼのしているように見えて実は冷徹な視線を感じます。
確かにそんな感じでした。もっとのんきなホームドラマかと思ってたもので、しんどかったです。
by シロタ (2008-11-04 15:58)