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「浮雲」 [映画]

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ある意味、喜劇。
というか、紛うかたなき、喜劇。
笑うしかないでしょう。
こんなふうになってしまったら、笑うしかない。
まったく勘弁です。

あら筋を聞くだにびちょびちょのベタベタ、かなりヒき気味で観てみれば、実際にはもっとびちょベタ大爆発。
これ、公開された当時にしても、ゆき子に感情移入してさめざめ泣いたりするような話だったんですかねえ?
とりあえず、わたしは無理(笑)。こんな男、嫌だよ。中途半端に賢しらなところが実に嫌だ。
どうせならとことん極めて「タイタニック」(ディカプリオの、例のやつ)ばりにロマンチックにやってくれればいいのに、富岡はヘタレだしゆき子はバカだし伊庭は因業だしおせいは軽いし、どーしようもないじゃないすか。観ている間中、ムカムカしてしょうがない(笑)。
さめざめうっとりのめりこむには、こんな奴いねえよってなくらいイイ男が、有り得ないくらいにヒロインに惚れて尽くす、ってのがないと駄目でしょ。
で、結局、平日の昼間にやってる奥様番組、みのもんたに説教される例のやつみたいに完全に覗き見感覚な俗っぽい観方になる。

が、ところどころでふっと引きこまれる。覗き見を許さないものがある。
それは高峰秀子の美しさにあるかもしれない。「どうにかしちゃってよ、どうにでもして」なんていうバカ女なセリフとか、蓮っ葉で品下れる仕草やら、とにかく通俗極まりないのに、どうしても単なるバカ女には見えない。
まあ、バカのひとことですませられる単純な人格なんて実際には有り得ないけれども、それにしても、どうかすると聖女のように気高く見える、その振り幅の大きさ。

富岡とゆき子の果てしない罵り合い、というか、罵るゆき子とひらきなおる富岡のやりとりがまた腹立つんだけど、延々と続けられるうちにやがて言葉の意味が失われ、ふたりの間でだけ通じる会話がなされているように見えてくる。
罵りあうほどにふたりの繋がりが深まってゆくような、凄まじい会話。

妙なことに。
やがて、ある種の聖性すら、感じさせられるに至る。
通俗を極め尽くしたところに訪れる、痛みにも似た、ある種の崇高さ。
乞食の姿をした神様のお話みたいな。
なにかを徹底的に失ったが故に到達する聖域。


ところで「浮雲」をご覧になった方、もしお手元に椎名林檎の「勝訴ストリップ」がございましたら、改めて聴いてみてくださいまし。
できれば、ヘッドフォンで、どっか狭いとこに閉じこもって。
今のところ、「浮雲」の印象に一番近いものは、あの耳障りで美しい音楽です。





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