「美しいこと」橋本みつる [書籍]
純粋であることに焦がれる気持ち。
何かを誤摩化すたびに、心が痛むこと、恐ろしくなること。
そして、その気持ちを恥じること。畏怖すること。
純粋さへの憧れ、ってだけなら、いくらも描かれてるものがあるけど、そういうのは大抵陳腐なものに成り果てる。
純粋なものって、そんなにヤスいものじゃないはずだから、そこには畏怖とか躊躇いとか恐怖がなければ、嘘だ。
なんていうか。
嫌なんだ。恐ろしいんだ。
自分の意に染まないことを受け容れることが。
例えば、話を合わせるために上辺だけでも「いいよね」って言ったりするだけのことが、どうしようもなく苦しい。
汚れて、腐っていくみたいで。
そんな自分が、馬鹿みたいだったりもして、どうにか馴れようと思うのに、それでも吐き気がする。息が詰まる。
決して、自分が純粋だなんて思ってないのに。
そんな気持ちが、軽々と、鮮やかに描かれる。
「誰が見ても文句が言えない様な
凄く綺麗なものがあればいいのに
偽善な感じや 安易さとか 全然感じない
それぞれの好みとか越えた感じの
ひと目見て分かる美しいものがあったら
どんなにホッとするだろう
そしたらそればっかり見て
それを信じて暮らすのに」
印象に残る台詞やモノローグがたくさんあって、決して上手い絵じゃないのに惹き込まれる。
傑作。
番外編の「みなこ猫拾い事件」も秀逸。
「優しくしてもらったり
部屋に何かいれば
僕が受けた傷がうまるという事じゃない
それはもっと全然別なものだ
それは
僕自身で越えていかなきゃならない事であって
女の子から優しくされて
どうこうなる事ではないんだよ」
安易に癒されたりできない。
好きな女の子に、優しくされて嬉しいけれど。
ときどき、目が眩むけれど。
だけど、違うんだ。
美しいこと。
安易ではなく、偽善でもなく、絶対に、純粋に存在するもの。
そんなものに焦がれるのは、安易で陳腐だったりするんだけど。
美しいものは存在する、ということ。
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