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「トニー滝谷」 [映画]

9bf37258-s.jpg村上春樹原作の映画。

実は、村上春樹の小説を読むと、精神的にボッコボコにオチるので読めない。
するするーっと滑らかに気持ちよーく読めてしまうのに、読後、のしかかってくるような疲労というか不安というか気持ちわるーい感じがどうにもしんどい。

で、映画「トニー滝谷」。
例の、疲労というか不安というか気持ちわるーい感じ、再来。
得体の知れない不透明さ。

鈍重で、圧倒的な、息詰まる、灰色。
色彩の彩度が抑えられている、というだけではなく。
光の明るさまでもが徹底して中間調に整えられ、常に均質な灰色が垂れ込めている。

暗く力強く重厚なはずの黒は、わずかに混ざった明色によって濃い灰色であり。
明るく抜きん出て輝くはずの白は、わずかに混ざった濃色によって淡い灰色である。
すべての色彩が混色を施され、のっぺりと鈍い灰色に傾いている。
部屋には大きな窓があり、抜けのよい空が広がることを期待させられるのに、その空も灰色を帯びて透明感を失い、突き抜けることを許さない。

ムンクの「思春期」みたいな。あの色彩。純白も暗黒もない、閉塞した色づかい。
滑らかな筆致で生き生きとした若い体を描きながら、茫洋とした表情と薄暗い陰が観る者をいたたまれなくさせる、あの感じ。


現代社会に於いて、わたしたちを痛めつけるのは、あからさまな暴力や劇的な不幸や厳然とした孤独などではなくて。
ぼんやりとした不透明感、閉塞感、それがもたらす重苦しい不安、なのかもしれないと思った。





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