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「フツーの仕事がしたい」 [映画]



「フツーの仕事がしたい」公式blog


内容的には、ザ・労働争議なんだけども。
こういっていいものかちょっと不謹慎な気もするんだけど、おもしろいです。

硬派な社会派ドキュメンタリーとかが苦手でも、人間ドラマ的におもしろがれちゃうかも。
特に企業側の登場人物のキャラが立ってて、嘘みたいに典型的なゴリゴリ社長とか、ヤクザ紛いの労務屋とか、親会社の事なかれ幹部とか、お前行って相手して来いよって言われちゃった下っ端感アリアリの若造とか、コントみたいに役者が揃ってる。
この人たちを観るだけでもおもしろいけど、スリリングな(ときに下世話な)労使交渉のやりとりが見ものです。


セメント搬送トラックの運転手、皆倉さんは月に550時間超というとんでもない長時間労働にくたびれ果て、労働組合に加入するんだけど、その途端に勤務先の会社社長は“カネやるから組合やめろ”“退職願いを書け”とあからさまな不当労働行為におよびやがります。
月に550時間超っていうのは、相当に争議ズレして滅多なことじゃ驚かない組合幹部も仰け反るくらいの数字で、いちんち平均18時間くらい働いてる計算。法定労働時間もあらばこそ、過労死認定基準の数字を軽く越えて、5、6回くらいは過労死しちゃっててもおかしくない。

社長はすっかり逆ギレし、知り合いだという“自称・会社関係者”を頼みにキレまくる。
この“自称・会社関係者”の言動が、へたなフィクション底抜けにカッ飛んでて、仕込みじゃないかと思うくらいにベタベタ。
連日、皆倉さんの自宅に押し掛け、挙げ句に皆倉さんの母親の葬儀の席にまで手下を引き連れて現れ、ぶいぶい威嚇して暴行をはたらくタチの悪さ。
「なに撮ってんだよコラ」と、カメラ攻撃、お約束な感じで画像揺れ乱れ。(後にこの映像が証拠となって暴行容疑で逮捕され、刑事処分がくだされたそうな)
この“自称・会社関係者”は、労務担当役員として経営に参画することになり、カメラに向ってピースサインをするお茶目ぶりまでみせてくれる。

組合側もなかなかの手練。
「利益があがれば、人が死んでもいいのか?!」「コンプライアンスをどう考えているんだ?!」と語気荒く迫ってみたり、「憎くてやってる訳じゃないんですよ」「あなた、親の葬式にまで来られたらどう思いますか」と、かきくどき、あの手この手。

そんなこんなで盛り上がりまくる労使の攻防なんだけれど。
この映画のキモは「フツー」ということだと思います。
労働組合とか争議となると、どうしても政治思想がおしつけがましく感じられるものになりがちかと思うんだけど、この映画の場合、皆倉さんの「フツーの仕事がしたい」という素朴なつぶやきが素直に迫ってくる。
皆倉さんの場合、たまたまうけとった一枚のチラシがきっかけで労働組合に相談することになり、労働条件の改善を求めていくことになった。
ごくごくシンプルでフツーの話。

だからこそ、どうしてこんなフツーの話が大げさなことになってっちゃうのかなあ、と、ごく自然に疑問がわいてくる。
フツーが通じない世の中って何だろう。

そこまで大変な状況になる前に転職しろよ、とか、争議なんて面倒なことしないでさっさと辞めて別の仕事探せばいいのに、と思う人もいるかもしれない。もしくは、仕事があるだけマシだろう、とか。
けれども。
「フツーの仕事がしたい」っていうだけのことが、こんな大騒ぎになっちゃう、なり得るってことについて、ちょっと考えてみてもいいんじゃないかと思った。

実際は、争議なんてやんない方がいいです。そんなにこじれちゃう前に、フツーに話し合いで解決出来る方がいいに決まってる。
皆倉さんの場合は経営者側が相当ヘタをうったこともあってかなり早期に解決できたけれど、裁判沙汰になると数年はかかるし、中には何十年も争議を続けてる人たちもいる。
また、労働組合といっても万能ではない人間の集まりだし、経営の腰巾着みたいな御用組合とかヘタレな組合もあるんで、労組万歳とばっかりも言えない。
逆に、組合がなくったって従業員にきちんと向き合う経営者だって居るんだし。

要は、「フツー」ってこと。
周囲の皆もそうだからそれが「フツー」なのか、自分にとっての「フツー」ってなんだろうか、って立ち止まって考えること。
そして、「フツー」を諦めないってことなんじゃないか、と思った。

映画としてのつくりは正直、出来がいいとはいえない。
でも、このネタは今、時機をとらえた感がある。




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