「四川のうた」 [映画]
→「四川のうた」公式webサイト
画がすんごいよくって、しみじみほれぼれ見入ってしまった。かっこいーわー。すっげセンスいい。
計算の行き届いた、大胆で精緻な構図。
けれど、これ見よがしな大胆さではないし、小心で貧乏臭い精緻でもない。
ごくごく自然にやってのけるさりげなさ。技巧を技巧と意識させないスマートさがある。
見る側を威圧する四角四面な精緻さではなく、むしろ伸びやかで大らかなスケールの広がり。
光のまわり方が繊細で、画に透明感がある。
クリアな透明さじゃなくって、シアーな透明感。磨りガラスみたいなさらっとしたテクスチャ。
その質感が、工場の大型機械や金属のハードさや、朽ちた壁面の風合いを精彩に描き出す。快い抵抗感、手触りのある画。
目が映像を触る感じ。
特に、インタビューというか、人物が自分の物語を語るシーンがいくつかあって、その映像はほとんど同じアングルで動きが乏しい訳なんだけど、そういう画でも全然飽きずに見入ってしまうのはどうしたわけなんだろうか。エドワード・ホッパーの画みたいな、ただならぬ感じ。背景、部屋の隅々まで静かな緊張感が漲っている。
役者の演技に魅せられるってことではない。お話の劇的な盛り上がりがある訳でもないし。
ただ、聞くともなしに語りを聞いていると、次第に人物の人品骨柄が立ち上がってくる。人物の居る場所、そこにある家具や小物との関係、人物と風景と物語が一体となって立体的に立ち表れ、存在感を鮮やかに際立たせる。
その場所で語る人物と、人物の居るその場所が等号で結ばれる。
それぞれの人物はかなり順序だててまとまった話をする。話が前後したり言葉に詰まったりするたどたどしさはない。監督らしき撮影側の質問や相づちが最小限のリズムをとり、それもほんのわずかな介入で、人物は自ずから、非常に滑らかに語る。不自然なほど自然に。スムーズに。
実際の当事者が語る場面と役者が演じている場面が混在するけれど、その区別はあまり感じなかった。
敢えて言えば、全員が語り手を演じていた。混在する役者の演技は演じていることを強調しているように思えた。
ものごとは語られる瞬間に語り手の物語となり、さらに語り手を離れて聞き手に委ねられる。
“語る”というフィクションの運動性によって描き出される都市の姿。かつて栄えた、成都の巨大工場。
前作の「長江哀歌」は個人的にどうもしっくりこなかったんだけど、「四川のうた」の習作みたいな位置づけだったとしたら得心がいく。
「長江哀歌」で、
＞ジャンクーの心象は、実際の風景の画力、画格と、はたして釣り合うものなのか。
＞ジャンクー、負けてんじゃないかなー、と思ってしまったんだけど、どうなのかな。
＞奉節の街、風景が、矮小化されてるように見えてしまった。
と、モチーフ負けな印象を感じた訳なのだけど、「四川のうた」では、充分な咀嚼を感じた。モチーフをがっつり掴んで、描いてる。
その根拠とか要素として、具体的に映像にあらわれてる部分がなんなのか、うまくコレだ！って示すことができなくって歯がゆいんだけど。なんとなく、印象として。
それからDVDで観た「長江哀歌」の映像は、えらくもっさりもったり鈍重な画だった訳なんだけど、どうもそれって、DVDの出来があんまりよくない可能性もあるらしいです。
確かに「四川のうた」の冴えっぷりキレッぷりを観ると、同じ作家があんなもっさり映像を許すかどうかは多分に疑わしい。なんてこったい。
それからそれから、「長江哀歌」にしろ「四川のうた」にしろ、邦題のセンスもちょっと今イチかもしんない。“エレジー”とか懐メロのびちょっとした情感からはもっとも遠いとこにある映画だと思うんだけどな。
原題の「三峡好人」「二十四城記」か、英題の「STILL LIFE」「24CITY 」の方がクールで抑制がきいてて、似合ってる。
こんにちは☆
上映されるかどうかわからず、劇場で見られるかどうかはわかりませんが、
お気に入りのようですね。
タイトルは、原題・英題とも、「長江哀歌」よりいいように思っています。
by yutake☆イヴ (2009-06-01 23:31)
yutake☆イヴさん、コメントありがとうございます。
いやもう、すっごくイイです。お気に入りです。
この作家はタイトルの付け方も一家言ありそう、と勝手に思いました。
原題はもとより、英題がまたクールでイイ。センスいいなー。
by シロタ (2009-06-02 08:52)
これは見てみたいな〜
by room7 (2009-07-31 07:43)
room7さん、nice!とコメントありがとうございます。
わたしももう一度観たいです。DVDはまだかな。
by シロタ (2009-07-31 09:18)