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「ゲド戦記」 [映画]

アニメ化された映画の方。原作は未読。
最近、中古屋で安くなってんの見つけて入手。わーいわーい。
amazonのレビューとか眺めてもさんざんに酷評(そればっかりでもないか)されてるみたいだけど、わたしはコレ結構好きです。
もうすっごい鬱いんだけど、この鬱加減が適。

全編を通じて、世界に対する懐疑、不安に閉塞して身動きとれなくなるような重苦しい空気が充満していて、ただ、それが不思議に不快じゃない。
すごく切実で苦しくてギリギリで、でもどっかこう、透明な諦観というか、もの悲しさを湛えて静かに向かい合おうとする。その姿勢が誠実なんだと思う。


草原でのテルーの歌んとこは結構ぐっとクる。哀切。
その場面に至るまでの、猥雑な都市の風景や理不尽な出来事と対比して、風のわたる草原の広がりや沈みゆく夕日の輝きに感じ入る。
細やかな情緒を感じる風景描写。
ただ、この風景は、どこまでも他者で、隔たってる。トトロやナウシカの森と違って慰めてくれたり話しかけてこない。
誰かが泣こうが喚こうが風は吹くし日は沈む。世界は別にオマエのためにある訳じゃねえし、的な。まあ一方で、だからオマエひとりで世界を背負いこんで苦しまなくてもよかろうよ、ていうことでもあるけど。
そういう突き放されたところが、びちょっとし過ぎなくってイイ。


また、そういう風景描写を連ねつつ、理不尽と暴力な世相の描き方、鬱加減がキてる。パねぇ。
初っぱなから竜の共食い(首をちぎるとことか結構エグい)とか、国全体が疫病や不作続きな不吉不穏に重ねて、いきなりびっくりな親殺し。廃墟で白骨踏むユパ様ハイタカに、とりあえず助けられつつも主人公としてどうなのかってくらい不吉すぎる怯え顔アレン、街についた途端に人身売買に薬物依存と畳みかけられ、どんだけ鬱いんだ。
テルーが暴漢に追われる場面なんかには、マジで性暴力の気配を感じて竦んだ。怖い。

で、そういう理不尽とか暴力とかに対して、憤りや反撃に向かうんじゃなくて、ひたすら鬱。
アレンの、ホラー映画の登場人物並みに不吉なビビり具合に加え、逃避しようとしつつも逃げきれず(生真面目なコだのう)、諦めにうなだれる様子が強力に暗黒で鬱い。
クモにつけいられ、ハイタカを攻撃する場面は、父親殺した場面の画ヅラととぴったり被る。つまりアレンは二度も父親を殺すに至った訳だ。そりゃもう果てなく際限なく鬱い。

で、そこまで盛って重ねた鬱・不安状態から転じて、影を取り戻し、クモと対決するくだりは、ちと性急な気もするし理屈っぽくて説教くさいかなー、とかも思うけども。でもそんなにヒドくなくない?
影を取り戻した瞬間の竜の幻視とか、結構ざわっとキた。皮膚にクる。
クモの崩壊ぶりのキモさ加減もかなり生理的にクる。

竜とアレンが草原に降りるとこ、テルーの歌の場面と重なる風景は、ここでは夕陽でなく朝陽。沈むんじゃなくて昇る太陽。
とはいえ、テルーの歌の場面のもの悲しい情感が重なって、どこか寂しくたそがれてる。

世界の昏さは晴れない。
そういう甘くなさも結構好き。

悪くないと思うんだけどな。


ちなみに、拙ブログ「千と千尋の神隠し」記事に、「ゲド戦記」に関わる濃厚なコメントをいただいてて、本編記事より読みごたえありますんですぜ。是非にご参照くださいまし。








タグ:映画
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こえり

こんばんは。以前一度お邪魔したことのある こえり です。
ゲド戦記、先日テレビの放送を見ました。

>テルーが暴漢に追われる場面なんかには、マジで性暴力の気配を感じて竦んだ。怖い。

原作では、テルーはレイプされて、火の中に放り込まれた女の子という設定のようです。汚され、美からも遠ざけられた子。という。
はっきりは映画では言ってないけれど、親から虐待を受けたのかもしれません。(テナーが親がひどいことをした、と言っているので)

原作者のル・グウィンは「この作品を映画化するなら任せられるのはハヤオだけ」と言っていたようですが、宮崎駿がこの作品を引き受けられなかったのは、女性と一対一で向き合えないからではないのかな?と思います。

原作は女性の作家でテナーを主に描いた2巻では、女性の宗教上の立ち居地、(テナーは巫女だったようです)に言及しているようなのですが(原作自体読んだことはないんですが)
そこから、ゲドがテルーを出させる(男性の倫理観で閉じ込められた世界から)と言う感じみたいなんです。
そういう男性像を描けなかったんじゃないかなぁ、と。
原作は6巻あるので、吾朗監督も3、4巻をチョイスして映画化したし、2巻、4巻(4巻はゲドとテナーとテルーが共同生活をする、親子って事でいいのかな)を逃げて、ゲド戦記という物語を描くことも選べないまま、やっぱり自分には無理だ。。とあきらめたのかな、と。

長文すみません。シロタさんのジブリ映画評おもしろいので、ほかの作品のレビューも楽しませていただきました!


by こえり (2011-07-17 02:52) 

シロタ


こえりさん、いらっさいまし。たびたびのコメント、しかも長文のメッセージありがとう。大歓迎。
興味持っていただけて嬉しいです。

「ゲド戦記」映画版は原作ファンの方々からの批判が強いようですね。
それだけ原作に思い入れのある方が多いんでしょう。

わたしは原作と映画化はベツモノという立場ですかねー。
結局原作に入れ込むとどんな映像化でも納得いかない、または原作を忠実になぞった挿絵的なものであるなら内容的に濃ゆい原作読んでればいいな、ってなっちゃうもので。

むしろその翻案・改変ぶり、いじり具合に作家性があらわれておもしろいですね。
宮崎駿の男性観/女性観……、うわーこれまた掘り下げたらおもしろそう(ムカツきそう。笑)な観点ですね。興味深いです。


原作のテルー、えらいハードな境遇のコなんですね。テナーもかな?


吾郎監督にはオリジナルのお話をつくってもらいたい気もしますわー。
なんかいろいろ鬱屈とか熱情とか、どろどろぐつぐつ溜めてたぎってそうな気がするんです。出しちゃえー!みたいな。笑。


たびたびありがとうございます。


by シロタ (2011-07-20 15:57) 

こえり

こんばんは。

最初に触れたものが刷り込まれちゃうから、先に本を読んだ後の映像から受ける印象ていうのは、それはもう仕方ないんだろうなと。思います、わたしも。

コクリコ坂、見に行くかどうかは分からないんですけど、吾朗監督曰く、宮崎駿の企画書を読んで「閉塞感に満ちた世の中を作った世代が若かったころを描いて『あの時代はよかった』みたいになるのは下の世代として承服できない気持ちがあった」ということを読売新聞のインタビューで言ってました。

原作は昭和50年代だそうですが、映画は東京オリンピックの前年の1963年という設定にわざわざ駿監督(監督ってつけることもないか。。なんて呼べばいいか、呼びたいか、わからなくて)に反抗、みたいな(笑)
昭和50年代の設定だと、だめなんでしょうかねー。その時代は。
高度経済成長によって失われようとしているものを描く、というのには、もうちょっと巻き戻さないと、鮮明さにかけるとか?

ジブリの映画監督は、いままで高畑監督、宮崎駿監督、以外に2作目を撮った方はいないそうなので、吾朗監督がどう行くのかなーということは気にしてます。
っていうか吾朗監督の顔が好き!というただの みーはー です(笑)

・・ってまったくゲド戦記の話じゃなくなっちゃいました。。
by こえり (2011-07-21 01:26) 

シロタ


こえりさん、たびたびたびのコメントありがとう。
おもしろいですねー。

コクリコ坂、(わたしの見聞きする範囲では)わりと評判いいみたいですね。


>下の世代として承服できない気持ちがあった」

ぶっ(賛同の笑)。ああ、コレには期待したい。
ほんと「あの時代はよかった」とかいうのはカンベンです。


>吾朗監督の顔が好き!

あ、わかるわかる! ちょっと一癖ありそうな、アクとか渋みが強そうだけど、イイ顔ですよね。
なんかいろいろあっても、ちゃんと自分で引き受けてる顔な気がします。人のせいにしてないっつーか。(←エラそうに…)



by シロタ (2011-07-22 12:39) 

こえり

こんばんは。

63年に設定を変更したのは、41年生まれの駿監督(やっぱりなんと呼んでいいか、わからない。。)が、自分の青春期を重ねれるから、みたいです。
(それは通さないといけなんでしょうかねー)(ノスタルジーというのは誰にでもあるけれど、人が監督するんだから、そこは自我を通さなくても、という気も。。)

全身で抵抗を図るでもなく、でも言うとおりにはしねーぞ、という姿勢自体がかっこいい、と思います。
前回の ゲド戦記 と同じく、今回もV6の岡田君を起用したのは、吾朗監督の内面を投影しやすい男の子(って言ってもいいのかな。もう30くらいな気が)
だからなのかなと。
岡田君、読書家で、聴いた事ないけれどラジオでもかなり知的な面を見せているようです。(と偉そうに言ったところで、岡田君のことを 「きれーな顔ー。。」と思っていたことがあるだけの みーはー ですが!)

かっこいい男子がたくさんいると女子の心は潤うので、ぜひかっこいい(本気で!)男の人が増えて欲しいものと思います。
by こえり (2011-07-23 01:33) 

シロタ


時代設定は、作劇の要素とか、ターゲットとして狙う観客層とか、いろいろ兼ね合いがありそうな気も。あと、’60sが単純に絵になりそう、とか。
まあでも、実際に観てみないと何とも言えないかなー。

つか、原作と変えないと気が済まないんですか、ってくらい変えるじゃないですか ふ た り と も(笑)。

岡田くんのアレン、低めの声がけっこうハマってた気がします。
あと、手蔦葵の歌は強力ですね。


by シロタ (2011-07-23 12:06) 

こえり

返信ありがとうございます。

>時代設定は、作劇の要素とか、ターゲットとして狙う観客層とか、いろいろ兼ね合いがありそうな気も。あと、’60sが単純に絵になりそう、とか。

商業的にどうとかもあるんでしょうかねー。でもCMを見る限り、青っぽい学ランにグッと来なかったり(笑)見た後だと印象変わるのかどうか。

もし過去記事のコメント欄とかにもお邪魔してかまわなければ、また気まぐれにお邪魔させてください。
この間、録画した 海が聞こえる もまた見返してみようと思います。
それでは失礼します。

by こえり (2011-07-23 19:41) 

タニプロ

トラバが届きません。

「コクリコ坂から」難点もあるけど良かったです。ただ、あまりヒットしなそう。

ファミリー映画要素が薄い。
by タニプロ (2011-07-24 23:00) 

シロタ


こえりさん、毎度どうも。

過去記事コメント、遠慮なくどうぞどうぞ。

お返事遅れることがあるかもしれませんが、
楽しみに読ませていただいて、必ずお返事しますんで、気長にお付き合いください。


by シロタ (2011-07-27 12:25) 

シロタ


タニプロさん、どうもー。
トラバ不具合のようですんません。「SUPER 8」の記事にタニプロさんとこのリンク貼っときました。


「コクリコ坂から」ご覧になったんすね。
泣ける!ていう噂もちらほら聞くけど、全体に地味めな印象なんですかね。
評判はよさそうですけど。


それより「ビューティフル」が気になります。
「バベル」結構よかったのでもとから興味あったんですけど、タニプロさん大絶賛に鑑賞意欲湧く涌く。濃ゆそう〜。



by シロタ (2011-07-27 12:32) 

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