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「チョムスキーとメディア マニュファクチャリング・コンセント」 [映画]

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「チョムスキーとメディア マニュファクチャリング・コンセント」 配給会社シグロの紹介サイト

原題は「Manufacturing Consent」、この映画製作のために立ち上げられた製作会社は「Necessary Illusions」。
前者は「合意の捏造」、後者は「必要な幻想」と訳され、どちらもこの映画の中でキーとして用いられる語です。

内容は、映画というよりも論文。
ノーム・チョムスキーの言説を借りて、マーク・アクバーとピーター・ウィントニックが書き上げたメディア論、ていう感じ。
同アクバー監督の「ザ・コーポレーション」もそうだったけれど、ものすごく綿密でねちっこい取材を積み重ねている。
インドネシアが侵略した当時の東ティモールの映像なんかよくぞ集めた。
取材能力は驚嘆に値するが、いかんせん映像を挿し絵みたいに扱うので、ブッツブツに途切れた切り貼り感あり。
注意深く観ていくと、チョムスキーに対する反論も正当に扱い、フェアであろうとする姿勢は感じられるんだけど。

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情報を切り貼りしてニュースをつくってるのよ、の図。説明的でしょ(笑)


苛烈な冷戦下において、メディアが情報を扱うにあたり、情報の採否にイデオロギーが影響しただろうことは想像に難くない。
例えば、カンボジアと東ティモールの住民大量虐殺。
同時期に起こった、似た性質の事件でありながら、一方は大々的に取り上げられ、一方は極端に記事が少ない。
手っ取り早く言えば、カンボジアの加害者ポル・ポト派は共産=アメリカの敵で、東ティモールの加害者インドネシアは反共=アメリカの味方。敵の悪事は大々的に取り上げ、味方の悪事は口をつぐむ、ってことなんだろうけど。

ことはそう簡単でもない。
イデオロギーよりもっと根本において、メディアが偏向するのは「情報の採否」を行わなければならないことだ。確かに、隣んちの子どもの乳歯が抜けました、みたいなことまで、なにもかも報道するのは物理的に限界があるだろう。
そこで、これは報道する、これは報道しない、と情報の選別がなされ、「採否」が決定される。
この「情報の採否」が不可欠という点だけを理由としても、「すべてのメディアは偏向している」と言える。

チョムスキーの指摘に対し、メディアの担当者は、「学者先生は現場をご存じない」と冷笑するか、せいぜいがキョトン顔の困惑程度の反応に留まる。「だって全部報道するのは不可能ですから」と埒もない。
これはなかなか、本気で気持ち悪い。
たいていのメディアは公正中立な立場でニュースを報道していると思っている。
偏向を自覚するのは至難のわざだ。

偏向したメディアの偏向した報道を見聞きすれば、どんなにフェアに厳正に判断を下したとしても自ずから結論は決まってしまう。
むしろ、フェアで厳正な判断を下すからこそ、受け手側は疑わない。
それをチョムスキーは「合意の捏造」と呼ぶ。

というようなことを微に入り細を穿ち、ねちねちと論証を加えていく、まさに論文。
論文としては読みやすいが、映画としてはしつこい。
個人的には、若き日のチョムスキーさんの行動や意見に接することができ、それが現在もぶれることなく貫かれていることに感銘を受けた。
肝の据わった人物だ。

ところで。
すべてのメディアは偏向している。
つまり、チョムスキーも偏向しているし、この映画も、私のレビューも偏向している。

完璧にニュートラルなメディアは存在しない。
多様な情報源の中から取捨選択し、自分なりの判断を下すしかない。

不思議なもので、あれこれメディアをしょっちゅう覗いて観察していると、嗅覚がはたらくようになるというか、自分が欲しい情報が飛び込んでくるようになる。
特に、ネット上の、yahoo!映画レビューやら2ちゃんねる掲示板やらブログなど、誰でも書くことが出来るメディアは、まさに「隣の子どもの乳歯が抜けた」レベルの情報までみっしり詰まっているから、読み解くにはコツが必要なのだけれど、慣れると、とても興味深い情報源だ。

それに比べると、マスメディアのニュースの一本調子で安易で平易なことといったら。
そのぶん、読み解くのはしんどい。
マスメディアが、何かを声高に叫んだとしたなら、その正反対の事象はないかどうか、探してみたほうがいいと思う。これ結構、難しいよ。
あいつら、あの手この手で視聴者に気づかせないようにメッセージを滑り込ませようとする。ほんと手強い。

こういうのを、「手入れ」という。
「日々の努力」と言い換えてもいい。

つまりね。
安易に情報を求めてはならない、ということです。。
情報の手入れを怠ると、マスメディアにオドらされてカモられ、国家に騙されて搾取されます。
自戒をこめて。





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