「蟻の兵隊」 [映画]
理不尽な命令にも従わざるを得ない、自分たちはちっぽけな蟻の兵隊だった、と、意味はわからんでもないがちょっと安い比喩じゃないだろうか。
各所に実際の蟻の映像なんか挟んじゃったりするのはあまりにもわざとらしいし、如何にも謎めかした音楽も気負い過ぎで気恥ずかしいし、靖国神社に集う所謂右翼と呼ばれる人たちを対比にもってきちゃうのはあざと過ぎてヒく。
それでも、命令に従って中国に残留させられ戦わされ苦労した挙げ句、帰国してみたら勝手に残留した志願兵扱いで恩給もなし、とか言われた日には理不尽のあまり
「死んでも死にきれない」
と昂る悲痛な気持ちは十分に伝わってきた。
病床で雄叫びをあげる老人の姿はかなりクる。
一方で、加害者としての体験に話が及ぶと、途端に態度も記憶も曖昧になる。
中国に残されていた資料によって自分のやったことを思い出させられ、驚愕する姿なんかはかなり不気味。
自分が殺した誰が殺したとかいう話じゃない、個人の問題じゃない、軍隊とはそういうものだった、命令だった、逆らえなかった、戦争は人間を変える、もう戦争は嫌だ。
自分自身を偽ることにすら成功していない空疎な言葉に聞こえた。
責めるつもりはないけれど。
ノーム・チョムスキーは言った。
「誰だってテロをやめさせたいと思っている。簡単なことです。参加するのをやめればいい。」
誰かの言うことをきくのは実はとってもラクで、逆らうのは面倒で、ついついラクを選んでしまいがちだけれど。
嫌なことはしちゃいけない。
やりたくないことは絶対にやっちゃいけないんだ、と思った。
“死んでも死にきれない”ような思いをしたくなかったら。
吉田健一は言った。
「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。」
常に自分の生活が美しいのかを問い続けるのは非常に厳しい。
例えば、日々口にする食物、身につける衣類、煮炊きし暖をとる燃料、生活を営むすべてのものごとの素性が通っているか、道理を外していないか、美しいか。
それに執着するのはさらに厳しいだろう。
けれど、それしかないんだと思う。
“死んでも死にきれない”ような思いをしたくなかったら。
こういう映画は好きじゃないんですが、一つだけ。
戦場などで殺人をした人間の98%がなんらかの精神疾患に近い症状を出すそうです。
ptsdって奴ですが、そういうのが表に出ない人たちでも、自分の記憶に蓋をすることで疾患が表に出るのを押さえていることが多いみたいです。
なので、爺さんが言うことは不自然かもしれませんが、帰還兵にみられる典型的な受け答えの一つだそうです。
ちなみに、この映画のように、過去の事実(自分が殺人に関わった確実な証拠を示す等)を後の心理ケアなしで思い出させることは軍属の精神科医が一番やってはいけないこととされている部類に入ります。
米軍兵でも、これで自殺した例が恐ろしいほどあります。
この映画制作側にはまともな臨床心理資格保有者が一人もいなかったんでしょうか。
そのことのほうが恐ろしいです。
by NO NAME (2009-05-21 22:22)
NO NAMEさん、コメントありがとうございます。
なるほど、あやふやな態度も彼らの心の闇のあらわれなのかもしれないですね。
映画としてはあまりいい出来ではなかったです。心理ケアへの配慮なども、推して知るべしといったところかと。
by シロタ (2009-05-22 09:14)