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「17歳のカルテ」 [映画]



特別な存在になりたい。
スペシャルに勉強ができたり、運動ができたり、美しかったり、人気があったり、背が高かったり、なんでもいい。
代替の利かない、この世で唯一の、ただひとりだけの、特別な存在でありたい。
何事にも、何者にも揺るがされることなく、強く強く、他を圧倒して存在したい。
「スペシャル」になりたい。
願うのは、いつだって、誰だって、それだけだ。

けれど、スペシャルな混乱に、凶悪に、クレイジーに陥ってしまったら。

閉鎖病棟の中の少女たちに共通する瞳。クレイジーの烙印をおされた劣等感と、裏腹の優越感がその瞳に宿っている。
外の連中とは違う私、繊細な私、混乱する私、凶悪な私、誰にも理解できるはずがない私…。
間違いなく、「スペシャル」な私!
アイスクリームショップで少女たちは誇らしげに吠える。
Don't point your fucking finger at CRAZY people!


決して望んで陥った訳ではないけれど、クレイジーでいることに安住しようとしてしまう痛々しさ。
「スペシャル」であることの孤独。同胞を得て安心する、ぬるま湯の心地よさ。

躓きに気づき、歪んだ優越感を捨てて、自分自身と向き合おうとするスザンナ。
一方で、凶悪な自分にしがみつこうとするリサ。
ふたりのたたかいは、誰の心の中でも繰り広げられる葛藤の姿だ。

勝敗がつくわけでも、ましてや問題が解決するわけでもないけれど。
病院を出るときのスザンナはとてもきれいだ。



ウィノナ・ライダーの目が凄い。入院当初の怯えた目、優越感に浸るクレイジーな目、立ち直ろうとする素直な目。
アンジェリーナ・ジョリーのキレっぷり、役のハマりっぷりの見事さ。
他の女優も素晴らしい。演技っていうか、佇まいとか雰囲気ができてる。不安にむくんだようなデイジーとか、賢者然としたウィック先生。M.G.や他の患者、看護婦長、アイスクリームショップの店員まで、ほんの端役まで行き届いてる。

景色や建物のたたずまいが素晴らしい。ちゃんとロケしていて偉い。
家具や小物の細かいところまで行き届いていて素晴らしい。婦長の思いきり三角なメガネとか、デイジーのアパートの壁紙とか素敵過ぎ。欲しい。アンジーのぱっつん前髪、あれはイイ。偉い。
「オズの魔法使い」の引用でディズニーに著作権料を支払い、やたらに予算を食ったらしいが「17歳のカルテ」の中で観る「オズ…」は別格に素晴らしい。







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コメント 3

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NO NAME

『17歳のカルテ』
このタイトルに、17歳のうちにみなきゃいけない??
と思いギリギリに鑑賞したのを思い出しました。笑
でも、今見た方がずっとわかって、ずっと面白いような気がします。
でも原題はぜんぜん違うんですよね。笑

>「スペシャル」になりたい。
ほんとそれですね。そうやってみんな生きていっている…。
誰かの「スペシャル」とか、みんなの「スペシャル」とか…。

>17歳のカルテ」の中で観る「オズ…」は別格に素晴らしい。
ドロシーが『おうちが一番』っていうシーンでしたっけ?
彼女たちがどんなことを言っていたかはわせうれてしまいましたが…><
オズの魔法使いのメッセージは好きなんですが、
『お家に帰ること』が答えなのが、
今の私にはよくわからないでいます。。
by NO NAME (2009-08-31 21:56) 

お鈴

そしてこちらも↑すみません。。汗
by お鈴 (2009-08-31 21:58) 

シロタ

「17歳…」での「オズの魔法使い」は、ドロシーがルビーの靴で家に帰ることができる、と知ったときのシーンです。
あれほど切望していた「お家に帰りたい」という願いは、実は自分で叶えることができる、と気づくところ。

閉鎖病棟にいる少女たちは「お家に帰りたい」ドロシーで、
そして、その願いを叶える力は、必ず自身が備えている、
いつかそれに気づくことができる。
少女たち(特にジョージーナ)は、その確信を得ることができた。
そういうシーンだと思いましたですね。

少女たちはそれぞれに問題を抱えているのだけれど、実はその問題こそが「スペシャル」なんですよね。
彼女たちはinterruptedしてしまって、疎ましい問題に形を変えた「スペシャル」に苛まれているけれど、いつかその問題こそが彼女たちを輝かせるだろう、と。

そういう確信に満ちたラストシーンに繋がっていて、「オズ…」の引用はかなり重要な要素だと思いましたです。


by シロタ (2009-09-02 09:46) 

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