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「プラットホーム」 [映画]



今月半ばにジャ・ジャンクー監督の映画が特集上映され、レンタル屋にちょいちょい出回る映画でもないし(わたしは映画館で観なくっちゃ!ていうこだわりは薄いもので。別にDVDでもかまわんのですけど)、出不精を推して出かけましたのですよ。

「長江哀歌」「四川のうた」は再鑑賞、「プラットホーム」「一瞬の夢」「世界」が初見、三日間で5本とジャンクー漬けになってみた。
「長江哀歌」の画ヅラのもっさりはDVD故か?の件についても解決したのでそのうち再鑑賞の感想も書きます。書きました。→「長江哀歌」再鑑賞


で、この記事では「プラットホーム」の感想。

題名は作中で何度か流れる歌のタイトルで、原題は「站台」、英題も「PLATFORM」。
この歌がねえ、プラットホームで汽車が来るのを待ってる、っていう歌詞で、旅立ちに際して出発の高揚とか別れの寂寞とかがないまざったような感情が過積載気味にびっちり満載な歌。

山西省の地方都市、汾陽(フェンヤン)。田舎のどん詰まりの若者4人が、その圧倒的にどん詰まった田舎に囚われつつ、抜け出そうとしてみたり逃避してみたり現実を見据えて受け容れようとしてみたり、ていうお話。
俺たちの明日はどっちだ、みたいな、どこの国の若造も悩む普遍的な姿でありながら、中国の社会情勢を下敷きに近代地方都市の土着がどっしり迫ってくる感覚が印象的。

埃っぽくてかさかさ乾いた雰囲気、城壁の石組みのざらっとした質感が印象的な街の風情。
シケてる。なんかもうしみじみとどうしようもなく田舎で、行き場のない思いが充満して息苦しくなりそうな容赦ないシケシケ具合なんだけど、不思議に重苦しくない。

若者たちは、自分たちを出発させてくれる汽車を待ってる。気が狂いそうなくらいに待ってる。
どこかに行きたい、ここじゃないところで生きたい、自分の居場所を見つけたい。
同時に、汽車なんて来ないこともよくわかってる。
今、自分が居る場所から目をそらさない。そらせない。
たとえ汽車が迎えにきたとしても、彼らは乗らないかもしれない。

漂泊の憧れなんていう綺麗な言葉では表せないような、強烈で切実で狂おしい気持ちが、静かに鮮やかに伝わってくる。


しかし、なんかちょっと堪らんなー、と思うのは、歌とダンスのシーン。
「プラットホーム」に限らないんだけど、ジャンクー作品に出てくる歌とかダンスって、なんかこう居たたまれない感じにダサいというか陳腐というか、観ちゃおれねえ感じにイタい。
ロックもどきのステージとか、ディスコとか、トラックの荷台で踊る娘たちの画はキツいぞ。
10年前とかちょい昔の流行を見て、うへえ〜と思う類いのイタさ。

歌の使い方がまた、タイトル曲の“プラットホーム”とか、いかにも歌謡曲な歌をいかにも歌謡曲な風情にびっちょりめそめそのベタベタに入れ込んでくる。
他のシーンでは、むしろ人物の感情表現は抑制されてる印象なんだけど、(つか、ひき画多用で人物のアップがほとんどなく、表情の演技で迫ることはほぼない)その分、歌の情感は過剰気味のダサめイタめにかましてくる。

そのイタさが、若者の居てもたっても居られない感じの性急とか切実さが表されるのにものすごっく効果しているのはわかるんだけど、ちとやり過ぎじゃありんせんか、などと思った。
「一瞬の夢」でも「青の稲妻」も「世界」も「長江哀歌」も同じ演出を見かけて、いずれも(特に「青の稲妻」)沁みるんだけれども、正直、またですかー、とか思っちゃったのも事実。すんごく巧いけど、巧さが際立って嫌みくさく感じるギリギリな感じ。

まあでもこのへんはクオリティの出来不出来じゃなくって、個人的嗜好の好き嫌いの問題かもしれない。
シロタの好みじゃないってだけのことかもなー。


いろいろ文句いいつつ、印象に残るシーンがいくつもあって忘れ難く心にひっかかる映画。
とはいえ、ジャンクー初見にはあまりお薦めしないかな。 初ジャンクーなら「青の稲妻」をお薦めしとく。





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コメント 2

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ヒノキオ

なつかしっ!

僕はこれが初ジャンク―でした
今時珍しいくらい「カメラを回す」ことに自覚的であるというか、
カメラが動くごとに「ああ、時間が過ぎてしまった」と想わされる
切ない空気だけなんとなく覚えています

『世界』以降と以前でなんとなくその使い方
長回しが持つ意味が違ってくる気がしたのですが
まだうまく言葉に出来ないです
なかなかレンタルに置かれないんですよねぇ
by ヒノキオ (2009-12-28 13:37) 

シロタ


ヒノキオさん、コメントありがとうございます。

なんかすっごい長く感じたんです。っていうのは退屈だったっていうことではなく、観始めてから観終わったときに10数年も過ぎてしまったような、浦島太郎みたいな。
うん、せつないですね。そのくせ全然甘ったるくなくってドライに厳しい。

たしかに、「世界」以降でなんか違う気がします。


by シロタ (2009-12-30 20:48) 

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