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「トーチソング・トリロジー」 [映画]



市内の図書館所蔵のLDで観た。昨今の図書館は映像資料の揃えも充実してんだねえ。とはいえ、さすがに「マルメロの陽光」はなかった。ち。
館内利用オンリーだったんだけど、おもしろいのはそこの利用方法。そこの図書館ではLDやDVD等の媒体そのものは利用者にいっさい触らせない、それどころか機器の管制もすべて職員が操作する仕組みなのね。所定の用紙で観たい資料を申し込むと、ヘッドフォンと席番号をくれるんで、指定の席でセットして待ってると上映が始まる。いじれるのはヴォリュームだけで、一時停止もできず席を離れられないのが難だけど、これなら資料や機器を傷める可能性がぐんと減るだろうな。なるほどねー。


で、「トーチソング・トリロジー」。
ゲイセクシャルの恋愛や家族が描かれる訳なんだけども、奇をてらったとこがなくって、実直な印象。誠心と書いて「じつ」と読むことがあるらしいけど、まさに誠心(じつ)のある描写とでもいうか。誠実。
所謂ゲイムービーって扱いより、普遍的に恋人や家族や親子の話として観られると思う。

なんつうかね、トクベツ感とフツー感の兼ね合いがバランサブル。いやその、フツーとかトクベツっていう言い方がいかにもマジョリティ的でいかがなもんかってところではあるんだけども。
ただ、マジョリティとしても観やすいっていうか、マジョリティであることに後ろめたさを感じさせられることがない、ていうか。


恋して浮かれたりやきもきしたり、失恋してヘコんだりとか、気持ちが揺れ動くのはゲイもヘテロも関係ねえことよなー、と思いつつ、バイの恋人が異性と浮気、恋心のみならずセクシャリティをも裏切られる、とか、ヘテロセクシズムど真ん中でマジョリティぶっこいてるとなかなか想像し難い事態に至ってみたりして、それでも共感する感情を梃子に主人公目線でお話を追える。

すんなりお話に入れるのは、主人公アーノルドの魅力によるところが大きいかも。女性的な身なりや振る舞いの男性っていう違和感を払拭する、いち個人としての魅力。
表情とか、ちょっとした仕草とか、素直な愛情表現とか、いちいちチャーミング。とりあえず、わたしにとっては素直に愛すべき人物としてうつりましたです。
まあ最近は性別にとらわれない身なりや振る舞いも見慣れてきた感があるんで、そのおかげもあるかもしれないけど、この映画が制作された1988年当時はどうだったんだろ。慣れって大きいね。


軽さと重さの兼ね合いも良。ところどころユーモアが利いてて軽妙に笑えるところもありつつ(ウサギのスリッパ。笑)、マイノリティの抱える問題の重さから逃げない。ていうかその重さを、社会問題として無闇に煽るんじゃなくって、人の情が絡み合うが故の重さとして扱おうとする姿勢が誠実なんだと思う。

特に、ゲイセクシャルを認めない母親との確執、激しい口論のやりとりが痛い。
自分の存在が認められないもどかしさや憤りと、母の望むような息子になれない辛さってことがあると思うんだけど、その狭間の、アーノルドの言辞は身につまされる。

一方で、母も息子を愛するが故なのよなーていうのが伝わってくる。
なんかねえ、理解を拒絶されるように感じてしまうんだと思うのな。ゲイだマイノリティだっていう主張が強過ぎに感じて、差別とかマイノリティとか考え過ぎなんじゃないの、とか、さらには被害妄想っぽい、とまで思ってみたり。
でもそんなふうに感じる場合というのは大抵自分はマジョリティ側に居る場合であって、ある表現を切実に必要とする人々の、その切実さはなかなかわからない。

でも、そのわからなさを責めない感じ。
それでもって、その距離が永遠に縮まらない訳ではないだろう、と思える。

大切な人を思うアーノルドの気持ちを知って、息子をいたわる母親の姿に、いつかはそのすれ違いが解消されるだろうことが予感され、滋味あふれるエンディングにじわっと暖まる。

誰かを悪者にして貶めたりすることのない、敬意に満ちた誠実な映画であるなあ、と思ったことです。





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コメント 2

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ハイジ

初めてお邪魔します~。
今、亀コレクションも覗かせてもらいました。
口がクリーンと半円に笑っているのが可愛いですね。
中には頭の方が大きいのでは?という代物も(笑)。
私が持っている亀はビーズで作ったこんまいのと、ディズニーで買った『ニモ』のぬいぐるみ小亀ぐらいです。

『トーチソング・トリロジー』、やっぱりアーノルドと母親の魅力が大きいですよね。
「いちいちチャーミング」、そうでしょ、そうでしょー!
「誰かを悪者にして貶めたりすることのない、敬意に満ちた誠実な映画」、そうですよね。
人間の感情を丁寧に描く極上の映画には悪者がいないんですよね。
どんな立場の人の心情も平等に理解させてくれるような優しさに溢れているというか。

こういう映画が図書館で鑑賞できるのは素晴らしいことですよね。
利用者には触らせないっていうの、名案ですね。
でも、ちゃんとトイレに行ってからスタンバイしなきゃいけませんね。
by ハイジ (2010-02-20 07:10) 

シロタ


ハイジさん、来訪&コメントありがとう!
亀たちも見てくださったんですね。
ハイジさんのビーズ細工(キレイ!)も、可愛い犬たちがたくさんいて楽しいですね。

「トーチソング・トリロジー」、おかげさまで充実した映画鑑賞でした。
いろいろ理屈で難しく考えるより、アーノルドや母親やアランやエドやデビッド、それぞれの気持ちをしっかり感じて受けとめたい、と思いました。
誰に対しても、敬意が払われているのがとても心地よかったです。

お薦めいただいて、ありがとうございます。


by シロタ (2010-02-20 19:47) 

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