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「歌う船」アン・マキャフリー [書籍]

「攻殻機動隊」絡みで思い出した。15、6年前くらい、学生のころに面白がって読んでたSF小説。手元にある版は’95年3月発行の10刷、結構な増刷ぶりじゃのー。
初版は'84年、アメリカで発表されたのは'60年代、まさにSF勃興まっ盛りの頃なんじゃないですかね。この頃って本当にサイボーグとか宇宙船とかSFな設定や道具立てのアイディアが盛りだくさんに溢れてたんだなー。

主人公のヘルヴァは先天的な事由でそのままでは生存に適さない身体だったため、生命維持装置の整った金属の殻で覆われた「殻人(シェルパーソン)」として育つ。神経は入出力系それぞれの端末に接続され、目や耳の代わりにセンサーで知覚し、手足の代わりに車輪とか伸縮アームとかを動かして活動すんのね。
で、ある程度の年齢に至ったらそれぞれの特性を生かせるボディに移設されるんだけど、ヘルヴァの場合は宇宙船仕様で、通称「頭脳船(ブレインシップ)」と呼ばれるサイボーグ船として活躍する。腕を動かすみたいにエアロックやタラップを動かし、飛んだりはねたりする感覚でエンジンを始動させて発着場から離陸する。

ヘルヴァはちっさいころから歌が得意で、船になってからも「歌う船」として名を馳せる(なにしろ視覚も聴覚もヒトの可視聴域を軽く超えてて、殻人ならではの可視聴域に適した絵画や音楽といった殻人芸術みたいなものまである)。

おもしろいのはヘルヴァを含め、殻人(シェルパーソン)たちが、生身の身体でないことにちっとも引け目を感じていないこと。
地面をてくてく歩けないからってかわいそうがられる筋合いはないつーの、こちとら宇宙飛べますから、的な。
ときに非殻人(ソフトパーソン)のことを「へろ殻」とからかったりもするくらい、殻人万歳、船ボディの自分が大好き。それっくらい適応してる。殻人の人権団体まであったりする設定なんか、すんごくアメリカっぽい(笑)。

設定そのもののおもしろさやSF的未来的道具立てを、ほくほく楽しんでたんだけど、それだけではなくって、この「歌う船」の場合、少女漫画的におもしろい。

ちびの頃から無性のメカニックボディに順応しまくって育ったくせに、ヘルヴァは女のコなアイデンティティを保持していて、その語り口はなんかもう、仕事に恋に頑張る女のコ♡なんすよ。宇宙船なのに。笑。
ヘルヴァは頭脳船である自分に誇りを持っていて仕事もよくできる。惑星都市にワクチンを届けたり災害地に救援に赴いたりといった仕事をさくさくこなして、着実にキャリアを重ねてく様はワーキングガールの活躍・成長物語として堪能。
さらに、頭脳船(ブレインシップ)は、「筋肉(ブローン)」(笑)と呼ばれる専任乗組員とペアを組むことになってんだけど、そのパートナー探しの顛末は、王子様との出逢いを待つ姫君チックに少女漫画的。設定はしっかりしてるから甘過ぎるってこともなく、その甘さ甘くなさ加減も好適。
解説でも、SFにあまり親しまない人にも楽しめる小説として紹介されてます。

短編集「塔のなかの姫君」にもヘルヴァの短編が所収されてます。
シリーズ続編もあって、今んとこ「旅立つ船」「友なる船」「魔法の船」「戦う都市」「復讐の船」「伝説の船」が出てる。
「旅立つ船」は少女漫画度が倍増、パートナーとの恋愛話が濃厚(笑)。
「友なる船」は頭脳船の主人公より若い貴族子弟の冷血非情ぶりが格好良すぎな悪役萌え(笑)。
しかし、どうもシリーズ後半は失速気味な印象で、やっぱり一番最初の「歌う船」ヘルヴァが一番出来がいいんじゃないかな。短編集で読みやすいしね。





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