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アンドリュー・ニコル [映画]

この人の携わってる映画が好きであるらしい、と最近気づいた。
風刺とか皮肉っていうほどドギツくないんだけど、さりげなくもピリッと鋭く世相を衝いてみせるようなとこがあって、そのやり方がスマートでセンスいい。
画ヅラもシャープでかっこいい。照明づかいとか、イエローとかグリーンの調色とか、かっちりした構図と相まってクールにキまってる。
都会的なスマートさでエッジなテーマを扱ってて、なんつうかね、シュッとしててオサレ。
オサレなんだけども、上っ面な表層の捉えに留まらずに、かなりえぐってくる。


「ガタカ」’97
遺伝子操作で優生思想な管理社会のお話ですだよ。SF者にとっては特に先鋭的なテーマではないけれど、遺伝子情報の扱いを巡る倫理問題が現実化してきている昨今、鋭いとこ衝いてたんだと思う。
「僕に何ができるか、決めつけるな」ていう、主人公の叫びが、ニコルの立ち位置っていうか、人の願いとか可能性を信じる姿勢を示してるように思う。マイケル・ナイマンの音楽がまたほんのり切なくてよろしいのね。
あとコレ、個人的に美術とか衣装がツボ過ぎ、大喜び。ダブルのスーツなんておっさんくさいと思ってたんだけど、ちゃんと着るとめためた格好いいのな。レトロなインテリアとかマシンの設えが、未来の異世界感と現在から連なる現実感との絶妙なバランスで雰囲気出しててイイ。


「トゥルーマン・ショー」’98
コレは脚本を担当したらしい。監督は別の人。
過不足なく平穏に過ごす郊外住宅地の生活が、実はすべて誰ぞに仕組まれてつくられたものだとしたら。自分の生活は果たして本物か、という奇怪なしかし切実なお悩み。高度情報化社会・消費社会において、より巧妙に行き届いて管理される生活、ていうようなことが浮き彫りにされしてる。生活の合間にCMが挿入される場面とかキてる。チクチク衝いてるよね。
TVディレクターの独善的な傲岸さはちょっと語りすぎな気もした。つか、操作する側でさえ無自覚なシステムに生活が取り込まれてしまうことこそがヤバいんだと思うのね。
とはいうものの、コレ好き。なんだかファニーな魅力がある。


「シモーヌ」’02
CG女優シモーヌの断片的な情報に振りまわされまくりまくるマスメディアや大衆の軽佻浮薄ぶりが皮肉にえぐられてる。誰も作品や演技や演出なんて観てない(劇中映画がまたつまんなそーにつくってあって笑える)。女優のプライベートやゴシップにばかり人物の真実を求めようとする。
コレ、「トゥルーマン・ショー」の裏返しみたいなつくりだと思った。町ぐるみの演出を信じ込まされていたけれど最終的には虚構を拒んだトゥルーマンと、実在しないシモーヌを信じ込み、きりなく虚構を求め、騙されたがる人々の対比。
個人的には、シモーヌがCGプログラムだってことを公表した場合の周囲の反応具合とか観たかったかな。そんなの信じるもんか、シモーヌは実在するんだーていう意固地な反応だったりしてw。


「ターミナル」’04
ニコルは製作担当であるらしい。つか、製作って何するんだろ。そもそもは「パリ空港の人々」が元ネタなのかな?観てないからわからんけど。
スピルバーグが監督なので、ニコルの影は薄い。法の隙間に落ちた人っていうモチーフは多少はニコルっぽいか。
政変によって国籍が失われ、空港から出ることも国に帰ることもできなくなる、ていう奇態な状況に陥ってしまった主人公。国籍とか国家制度の虚構性を背景に覗かせつつも、そこに焦点があたる訳ではなく、主人公の空港生活、前向きでどこか楽観的なタフネスをユーモラスに見せてる。そゆとこ、スピルバーグっぽいのかも。
例えば「こうのとり、たちずさんで」とかシビアな国境を観ちゃうとぬるい話に見えるんだけど、こういう温血なヒューマニズムを信じたい気持ちは誰にでもあるんじゃないかなー、などと思った。


「ロード・オブ・ウォー」’05
初っ端から、薬莢がぎっちり敷き詰められた地面のアップ。で、視点が上方に向かうんだけどなかなか地表に至らず、延々と膨大な銃弾の物量を見せつけられ、ようやく地表に至ってズームアウト、んで、天然困り顔のニコラス・ケイジ。銃弾の海の中に困り顔で佇む武器商人。ていう、この画ヅラでカンペキ。
人殺しに手を貸す非道を心得つつも商売と割り切ってサクサクこなす武器商人の周囲を掘り下げつつ、キモは終盤の取調室のやりとり。武器商人に商売をさせ得る国家の在り様、武器商人の存在が必要とされてしまう状況の欺瞞がキモ中のキモ。悪意の姿が見えない、正体のない薄気味悪さ。
単純に武器商人を破滅させて終りにしないあたりの冴え方がニクい仕事。さりげに国連安保・常任理事国の五大国が世界の兵器市場のほとんどを占めてることに触れたりしてんのも小面憎い。
題名のロードはRoadじゃなくってLord。「戦争の君主」とか「戦争卿」とかそんな感じなのかな。



追記:’10年現在、アンドリュー・ニコル監督の新作が製作進行中であるらしい。ネタ元はIMDb
   タイトルは「The Cross」、主演はオーランド・ブルーム。SFだってさ。楽しみー。わくわく。







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まなてぃ

こんばんは。ご訪問とniceどうもありがとうございました。

『ロード・オブ・ウォー』は、私にとっては、満点!に近い映画でした。

社会派の映画であるにもかかわらず、
社会派特有のこう『うんざり』するような、暗さを表にださず
かといって、ハリウッド特有の、めでたさや甘さ、綺麗ごとは演出せず!・・

それなのに!面白い!(◎◎)よかったなぁ・・この映画・・
と呟けた作品なのでした。
こういう面白い社会派映画をまたね、アンドリュー・ニコルさんには
作って欲しいもんですね。

あ・・書き忘れ・・『トゥールマン・ショー』もイイヨネ!これまた、私も好き。(^^)
by まなてぃ (2010-04-29 23:34) 

シロタ


まなてぃさん、コメントとnice!ありがとうございます。

「ロード・オブ・ウォー」、社会派と言っても、社会問題の話題性/問題性に寄りかかってないんですよね。
ちゃんと消化されてて、独自の視点で作品として観せてくれる。

他の映画もそうなんですけど、安易なオチで強引なハッピーエンドに収めることなく、何かしら観ている側に思いを巡らせるような余地を残す、って感じがします。
その、自分で考えてみよう、と思わせる感じが押し付けがましくなくって好きなんです。

ひょっとしたら、まなてぃさんには「ガタカ」がお気に召すかもしれない、と思いました。


by シロタ (2010-04-30 12:51) 

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