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「借りぐらしのアリエッティ」 [映画]

へーえ。
なんだかこぢんまりしてて、でもそのこぢんまり感がイイ感じの作劇。
思ってたよりもしんみりせつないお話だった。

原作は未読なのだけど、小人や小さい生きものが主人公のお話というのは、普段の何気ない生活が、小さな生きもの視点でまるきり違うものにみえたり、身近な身の回りの物がまったく違う使い方で別物になるおもしろさがあると思うのね。
わたしが思い出せる範囲では、スプーンおばさんのお話で、指ぬき(所謂西洋指ぬき。シンブル(thimble)ってやつ)をコップに使う場面。あと、なんだっけな、ホテルに住んでるネズミの男の子が主人公のお話、仲良くなった人間の男の子が熱を出して、その子の為にアスピリンを探しにいくとこ。人間にとっては大した距離でもないのだけど、ネズミには大冒険だよね。

アリエッティも、まち針を剣に使ってみたり(一寸法師!)、両面テープやフックピアスを登攀用具にしたり、こまごまと縮尺の違う日用品が巧みに使われていて楽しい。
彼らの住まいとか、背景の描写もじっくり探してみたくなる感じの詳細な描き込み。

んで、人間や猫や他の生きものの大きさの感覚が、アリエッティたちにとって圧倒的であることが、ひしひしと感じられる。
大画面の猫の大顔面(笑)など、小人視点のクローズアップや、日常の物音が異様に大きく響いたりとか。
おもしろがれる範囲や冒険を試みるスケールを超えてて、端的に脅威。
人間が怖い。とても。
ハルさんの態度は、珍しい虫を見つけた程度のごくありがちな態度なんだろうけど、もう本当に恐ろしい。なんつう残虐シーンだ、とか思った。

一方で、人間としては小人たちと愉快に共存してみたい、っていう気持ちもあって。小人の為に家具調度を拵えて提供したい、ってのはそれね。ショウくんの行動は独り善がりで乱暴だったけど。
ただ、小人たちは小さくて圧倒的に弱い。人間が世話をしてあれこれ生活を調えてあげることが容易過ぎるほどに小さく弱い。
だから、関わったら確実に人間は小人を支配する。ペットにしてしまう。そのつもりがなくっても。
圧倒的な強者が弱者に安易に力を貸すことは、弱者の生活や尊厳を奪う。
(「南君の恋人」(内田春菊)は、男の子が女の子を可愛がりたい、っていう気持ちの顕われが、しばしば相手をおもちゃにして扱ってしまう、みたいなことを極端に寓意化して表されたお話だと思う。)

「借りぐらしのアンネ・フランク」なんていう観方もTwitterかどっかで見かけたけど、それだけじゃなくって、プラス「第9地区」かな、と。
他者に対する態度としてのお話。
彼らを憐れむんじゃなくって、彼らのそのままの存在を尊重する姿勢、っていうか。


ラストシーンのアリエッティたちの姿に、惨めさとか哀れさは微塵もなくって、ただ、彼らなりにフツーに生きていくんだよな、と思わされる。
自分より小さくて弱い生きものが居るってこと。その存在の尊さと、自分が誰かを滅ぼしうる怖さ、みたいなことを感じたことでした。





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コメント 6

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タニプロ

僕はちょっとせつない恋物語として観てました。原作の良いところをいただいて、結構うまく新しい映画にしてます。多分いまから原作読んでも、原作のほうも別の魅力を感じると思いますよ。
by タニプロ (2010-07-26 23:22) 

シロタ


タニプロさん、コメントありがとう。

そうそう、恋物語的に観ても、切なくて儚くて繊細でした。
ショウくんの病弱さも刹那的で、いっそう“今このとき”っていう瞬間の煌めきが眩しいのですな。

原作お好きな方からも概ね好評みたいですよね。
すごく誠実につくられてるんだろうな。


by シロタ (2010-07-27 14:38) 

galapagos

まだ見てないんですよ。見たいな~。
なんと「南君の恋人」に言及してる。漫画の方のフアンでした。
by galapagos (2010-08-01 10:07) 

シロタ


galapagosさん、nice!とコメントありがとうございます。

誠実で実直な印象の映画でしたよ。
ご覧になったら感想なりと窺いたいです。

「南君の恋人」漫画版はすごいお話ですよね。結末の衝撃とあっけなさに驚愕します。でも、あの結末しかないな、とも思える。
久々に読み返してみようかな。

たびたびの訪問、ありがとうございます。


by シロタ (2010-08-03 18:21) 

ジジョ

こんにちは☆
小人から見た人間の世界…ってだけでワクワクしますよね〜。
「スプーンおばさん」なつかしいですね!
好きで見てたけど、内容ぜんぜん思い出せない〜^^;
by ジジョ (2010-08-13 11:45) 

シロタ


ジジョさん、たびたびのコメントありがとうございます。nice!もありがとう。

そうそう、普段どうとも思わなかった自分の持ち物や行動が、小人視点で新鮮に感じられるんですよね。
日常の生活世界が大冒険活劇の舞台になったり、ほんとワクワクです。


by シロタ (2010-08-15 03:02) 

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