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「戦争の法」佐藤亜紀 [書籍]

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文春文庫から再刊行!本日発売ー!
ていうわけでamazonからギってきた書影。うー。嫌だなこの横尾忠則な感じの装丁。

装丁でいえば、新潮社文庫版の素っ気ない涼しさよ、まことに結構である。こっちの装丁のがいいのにな。
新潮社単行本版のバウハウスっぽい端正さも好感。

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最も好きな作家、佐藤亜紀の小説ん中でも、今んとこ最も好きな作品なのです。
ものすごくおもしろい。何回読んでも全然飽きない。

でも、そのおもしろさを説明するのは難しい。っつか、わたしには無理です。
あらすじをかいつまんで聞かされても、どこがどうおもしろいんだかわからない。
この作品に限ったことではないんだけども、佐藤亜紀作品の醍醐味はひたすら文章をむさぼり読む悦楽。
何が書かれてるか、ってことよりも、如何に書かれてるか。
テクストの快楽ていうやつ。

主人公の語りは一見地味っちくてドラマティックな盛り上がりに欠けて淡々としてんだけど、ときに滔々と流れ、ときにんん?って引っかかり、その緩急が体感的にキいてくる。読み進めるうちに、リズムや息継ぎのタイミングが掴めてきて、ランニングハイならぬリーディングハイって感じに気持ちよくなってのめりこむ。
ところどころでチクっと意地悪く刺される。莫迦を莫迦にする描写のハマってること鋭いこと、喝采ものに痛快なんだけど、その舌鋒がいつこちらに及ぶかもわからん感じの甘くなさにピリッと緊張を促される。
カリッカリにドライで血も涙もなさげなんだけど、硬くて冷たい壁の向こうに、脆くて繊細でやさしいものが潜んでるように感じられる。

つーか、だいたいがこの話はオカしい。
いきなり新潟県が独立を宣言し、そこにソ連が駐留、独立政府+ソ連vs日本政府+米軍なにらみ合いになり、とはいえ緊迫の盛り上がりというよりぐだぐだな状況、そこに反独立政府だったりなんだかよくわかんない主義主張を建前にただ暴れたいだけかもしんないゲリラがごろごろ暴れる、とか、または、田舎ってやつの土着な泥臭さ、陰鬱で鬱陶しい空気がもったりうっそり充満しつつ、キレ者でハンサムで傑物なんだけど実は田舎にしがらみまくりのぶちキレ伍長とか、繊細な美貌の天才狙撃手なんていう冗談みたいなキャラだての千秋とか、因業極まる超ドライ商人な父親とか、ザ・陰湿な伍長の弟とか、真性イカレ野郎な爆破名人、勝沼少尉(すげえ好き)とか、強烈な人物がぞろぞろ登場しまくり、なんていう、なんかすげートンデモなお話なんじゃないのかと思うんだけど、浮き足立って軽薄なところは微塵もなく、それどころか全体に薄暗い諦観が漂っていて、心地よく胡散臭い。

えーと、いやいやこんな話じゃないんだよな。やっぱりうまく言えないっす。最も好きな小説だってのに、我ながら腰が引けてるわー。情けないな。

実をいうと「フランス、アルザス、フランス、アルザス」ってなんのことかわからないのです。
他にも本読みならこんくらい知ってて当然だろうよ的に本歌取りが凝らされていたりするらしいのだけど、ちっとも皆目さっぱりわからない。
でも、おもしろいことはわかる。そーいうもんじゃないすか。

この機会にもっと読まれてほしい。
というわけで、今回の刊行はめでたい話でありますことよ。






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「STOCKHOLM 1933-1939」Andreas Feininger [書籍]

IMG_1233.jpgAndreas Feiningerの写真集。どうやら1991年にSTOCKHOLMS STADSMUSEUMちゅーところから発行されたらしい。


「四川のうた」の映像を観て、思い出して引っ張りだしてみた。
シアーな質感とか、ハイトーンのきめ細やかな発色とか、ぎしっと密度の高い描き込みとか、カリっとした立体感とか、共通するとこがあるような気がする。









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THE CRUISE-SHIPS "VOLTAIRE" & "ORION" LAYING AT ANCHOR
遠景の煙るような建造物のぼやけ具合が手前の船のカッチリ感と好対照。画面左下の船の側面のつるんとした白い部分が逃げをつくってて、その分量のとり方が絶妙だと思う。
この画像は印刷物をデジカメで撮ったもんなのでもっさりべったりしてるけど、印刷物の段階でももっとシャリッとしてます。ましてや、オリジナルのプリントはもっともっとキレがいいはず!


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KORNHAMNSTORG
船の帆柱と後ろの建物の窓のグリッドがシャキシャキした動きをもたらしてて気持ちよくって、またグレーの諧調の調えられ方が素晴らしいです。



他にも橋や建造物を大胆で動きのある構図でとらえたシャープな写真が多数載ってます。
また、フォトグラムやソラリゼーションといった技法を用いてみたり、動植物の形態をオブジェとして構造的に扱ってみたり、といった実験的な作品もあり。
そんなに分厚い写真集じゃないんだけど、製本もデザインもよろしくって充実してます。もちっと印刷がよければいいんだけどな。









以下はこの本からじゃなくって、ネットを漁ってみつけたもの。

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42nd STREET
Feiningerの作品で、もっとも有名な写真かもしれない。靄に煙るマンハッタン、光の調子がかっちょいい。

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タイトル不明
これ、手前の建造物も真っ黒くろにつぶれてるわけじゃなくって、ほんのり陰影の描写が残ってますのです。で、中央の隙間に遠景のクライスラービルが聳える。さらっとしてんだけどかっちり聳えてます。

うー。やっぱりかっこいーわー。




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雑誌「pen」バブルカー特集号 [書籍]

penクルマ.jpg2002年10月15日発行の号(通刊93号)。

雑誌「pen」は、オシャレなインテリおじさん向けの雑誌。以前はよく買ってた。
海外取材が充実してて写真もよくって蘊蓄の垂れ具合もセンスいい。
センスいいんだけど、ファッション専門誌(「VOGUE」とか「装苑」とか)ほどトンガらない、文化芸術誌(季刊「銀花」とか)ほどねちっこくない。
気の利いた軽さがあるっていうか、余裕を漂わせるスカした立ち位置、そのバランスの取り方にちょっと嫌みなスノッブくささも漂いつつ(笑)、まさにオシャレ雑誌ですな。
同じく阪急コミュニケーションズ(2003年以前はTBSブリタニカ)発行の「FIGARO japon」も好きでよく買ってた。

で、この号はドイツのストーリー村ってとこで開催された“Internationales Kleinwagentreffen(小型車国際ミーティング)”なるイベントの取材を中心に、バブルカーとも呼ばれるちびっこ車の特集が組まれている。クルマ専門雑誌の特集とは違う、ゆるゆるな感じがシロタには適。
表紙はメッサーシュミット。こいつもかわいいなあ。


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クルマ雑誌っぽくない写真とコピー。

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結構ねちねち取材してんだけど、メーカーとかエンジンの馬力とかクルマのスペックにあまり注目しないあたり、いかにもオシャレ雑誌な記事。笑。


他にも何冊かとっといてある。ていうか、まだまだある(困)。
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左から、’01年3/15(通刊56号)、’04年12/1(通刊142号)、’07年7/1(通刊201号)、’05年7/1(通刊155号)。
デザイン集団特集の号は、今見ても古くない。ていうか、この頃ってデザインが充実してたのかも。
ブレッソンの特集は、写真のセレクトや割り付けもよくって雰囲気よいです。

雑誌って、手放しちゃうとほとんど見らんないからなあ。単行本と違って、古本屋の流通も少ないし図書館とか保存されてるところも少ないし、だからって国会図書館までいくほどでもないし。
全部とっとくわけにもいかないんだけど、捨て難くって。雑誌コレクターの気持ちはわからんでもない。



タグ: 雑誌 PEN
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「夜は短し歩けよ乙女」「鴨川ホルモー」 [書籍]

別に狙った訳じゃないんだけど、書店で平積みになってた文庫を2冊ばかり購入してみたらどっちも京都モノだったという。しかも登場人物が大学生ってとこもおんなじ。
テイストは全然まったく違うんだけど、京都の空気つーか気配つーか、土地の風土みたいなんが舞台として活かされてる感じはある。
京都いいなあ。行きたいなあ。

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦
かわいらしい。小さくて愛らしいものをしみじみと愛でる感じの。
ダルマとかおともだちパンチとか偽電気ブラン(おいしそう)とか「なむなむ」とかりんご飴とか韋駄天コタツとかジュンパイロ(おいしそう)とか、ちまちまころころと散りばめられる人物やら小物の描写が愛い。
で、作者もちまころな愛らしさに照れてて、ときどき照れ隠しに閨房調査団とかヨゴレな要素を加えてみてる感じがして、それがまた愛らしい。しかしパンツ総番長はいただけない。
古本市で目を留める書籍のラインナップ(黒岩涙香!内田百閒!)に“先輩”の人柄を彷彿とさせられてみたり、緋鯉のぬいぐるみを背負って歩いたりする“彼女”の天然ぶりとか、気が利いてるっていうか、調子にのってどんどん趣味の世界に転がりそうなところを抑制を利かせてる。
ほどほどに凝りながらペダンチックにならない文章は、作者の照れと自負があらわれてるのかねー、などと思った。惜しむらくはタイトル。この人のセンスならもっと愛らしいタイトルつけられそうな気がするんだけどな。
ちまころに愛らしい京都の、気楽な読み物。


「鴨川ホルモー」万城目学
電車ん中で読もうとして断念した。吹き出して笑っちゃうんで。
安倍のヘタレ具合とか高村のイタさ具合とかオニの間抜けな生態に笑かされつつ、ついつい読みふけって、読み終わったあとに頭抱えてため息ついてみた。
くだらねえ。
さだまさしとかチョンマゲとか大木凡人とかくだらな要素がやり過ぎめに炸裂。ていうかレナウン娘はさすがにやり過ぎじゃないのか。
とはいえ、楽しんだのは事実。こんなくだらなくって阿呆らしいものをぐいぐい読んじゃう自分に可愛げを覚えつつ、ヘナヘナに力が抜ける脱力具合も含めて楽しんだ訳です。
勝ち負けで言うと負け。糞。
「ホルモー」の底知れないヤバさが、くだらなさに(多少)厚みを加え、陰陽の都、古都京都の伝奇ロマンを感じさせないこともない。
学生ならではの馬鹿馬鹿しさと古都のヤバさの兼ね合いがキモですかね。






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「愛がなくても喰ってゆけます」よしながふみ [書籍]



料理まんがの「きのう何食べた?」は当然としても、「西洋骨董洋菓子店」「フラワー・オブ・ライフ」とか、よしながふみのまんがっていちいち食い物がうまそう。
食ってる場面とか、表情とかもユニークかつリアル。リアルっていうのは写実的であるっていう意味ではなくって、激しく納得できる、って意味で。「西洋骨董洋菓子店」では、パフェをひとくち食らって“じたばた踊る”人が出てくんだけど、わかる! あんまりうまいと言葉になんなくって踊りたくなる、居てもたっても居られねえこの美味!ていう感じと“じたばた踊る”、は、かなり近い。実際に踊るどうかはまた別だけど。

てな感じで、よしながふみのリアル食い物ワールド炸裂。
実をいうと、料理そのものの絵はフツー。食い物の説明図以上ではないと思う。
が、食する場面の描写が激しく納得もののリアル。
まずひとくち食して「!」ていう間があって、その間の表情がいちいちキいてて、ウマーていうニコニコだけじゃなくって、眉をひそめたり目がテンになってみたり、食い物に応じてバリエーション豊富に描き分けられてる。
その間ののち、踊るだとか大量のセリフ(このセリフがまたウマい)だとかが、絶妙な緩急でうまいこと繰り広げられるので、うまいもの食って踊りたくなるっていう、下手するとナゾの言動が異様にリアルになっちゃう訳なのだった。

ところで、この発言が気になっちゃったんだが。
「Yながは間違いなく食い物に関しては異常者だが」p.66より
別に異常だとは思わないんだけど。
ていうか描かれてることにいちいち納得してんですけど。
ていうかシロタもいくらか言動がカブるんですけど。
ていうことはシロタも異常者なんだろうか。ていうことが今さら気になってみた。
ホント今さら。トホホ。

てな訳で、よしながふみ以外にも、この人の食い意地は納得できるぜ!って感じの作家の著作物を集めてみた。順不同。




(追記)
コメント欄でイモートよりお薦めの「ドラえもん」、“味のもとのもと”は13巻の“ジャイアンシチュー”に登場するらしいです。






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「雲雀」佐藤亜紀 [書籍]



なんと活版印刷だ! 文字の輪郭が印圧で紙に食い込んで、くっきりシャープな字面を際立たせている。端正でなめらかな書体は佐藤亜紀のハンサムな作風にぴったりだし、文字組みもいい。
いい仕事してるぜー、って嬉しくなったけど、考えてみればそんなん当たり前の仕事じゃないか、とも思う。

「天使」と舞台や登場人物を共有する短編集。続き物とか番外編とかじゃなくって、「天使」を読んでなくってもついていける、独立したお話なので長編の「天使」の前にこっちから読んでもいいかも。


「王国」
戦場の前線の様子が、淡々と乾いた描写でつづられるのがいかにも佐藤亜紀。
血のたぎる高揚もなければ、めそめそ嘆く悲劇でもなく、常温の人間たちの描写。
でもって、いわゆる超能力と言われるような能力を備えた人たちがごろごろ出てくるんだけど、その人たちがまた、特別であることの優越感とか苦悩とかからほど遠く、この上なく常温を保っている。
そういった熱に浮かされなさっていうのは、ある種の諦観に裏打ちされていて、その透徹ぶりが快い。
熱に浮かされちゃってるカルージヌィに対するジェルジュの辛辣。
「見せることができると言うなら人類とやらを僕に見せてくれませんか。 ー中略ー 鼠一匹殺す値打ちもありませんよ」
この乾いた諦め。


「花嫁」
うー。冷めて乾いてて淡々とした描写で、タフで殺伐とした人間同士なのに、こりゃとんでもねえロマンスだよ。うっとりだよ。
「あなたが好きよ、グレゴール」
「おれが出て行くから言うんだろ」
「そうだけど、でも好きよ」
ここんとこ、何度も何度も反芻しちゃった。うー。大好き。


「猟犬」
ひらたく言っちゃえば“超能力対決”(笑)な、お笑い沙汰なんだけど、伊達酔狂もここまで極めちゃうとめちゃくちゃかっこいい。男ってのは莫迦だねえ、と慨嘆しつつ、こういう莫迦なとこのない男ってつまんねえよな、と思う。


「雲雀」
これは、たぶん「天使」を読んでから読むとより楽しめるんじゃないかと。
「天使」で、なにもかも諦めきったような硬く冷たいジェルジュが、とうとうキレる。キレるんだけど、そのキレっぷりはやっぱり伊達男で、それでいて可愛げがあって(ギゼラに対する態度ったら、もう。かっわいい。笑)、ジェルジュ萌えご褒美編といってもよいかと(笑)。
ディートリヒシュタインのおちょくられ三昧な哀愁もイイ。ものすっごい阿呆扱いされちゃってるけど、ジェルジュとかスタイニッツとか他の連中がヤバ過ぎるだけなんだよね。気の毒に。




「天使」
「雲雀」を読んでから読むと、後半のエピソード、ダーフィットとその母、ライタ男爵とのやりとりが今ひとつ唐突で食い足りない感じがした。それで「花嫁」が書かれたのかなあ、なんて思う。
んー、やっぱり「雲雀」の前にこっち読んだ方がいいかな。

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「草食系男子の恋愛学」森岡正博 [書籍]

昨今、流行っているらしい「草食系男子」とかいうナゾの語。
草食て。草を食ってりゃ優しくっておとなしい訳でもないだろうがよ。ウマとか怖いよ。蹴られるよ。ゾウはどうよ。怒ったら怖いぜ。
肉食いが必ずしもがっついてる訳でもないし。肉食動物は食うときには食うけど満腹時にはぐうたらな低燃費体力温存型ののんびり屋さんも多いらしいよ。
…って、きっとそういう話じゃないんだろうな(笑)。

男は男らしく!みたいなマチズモからはみ出た(=解放された)男性、ってことなんだと思うんだけども。前からそういう淡々とした人って男女問わず居たと思う。
そんなに目新しい感じもしないんだけどなあ。


手元にある版が’08年7月初版発行、同年9月に第二刷発行の版。二ヶ月で増刷、まずまず売れてるってことかな。

 タイトルの「草食系男子」とは新世代の優しい男性のことだ。
 異性をがつがつと求める肉食系ではない。
 異性と肩を並べて優しく草を食べることを願う、草食系の男性のことである。

だそうなんだけど、この本はタイトルほど「草食系男子」にこだわってないと思う。
誰にでも、男性にも女性にもあてはまることがあるっていうか。
人を好きになったり、相手を思いやる気持ちに草食も肉食もないだろうし。

ほほう、と思ったのは、女性の立場や体への気遣い。
女性は常に襲われる危険を感じているので不安を与えないようにしよう、とか、生理のときは寒いところに連れて行くな、とか具体的に記してあって、おお、それはそうしてもらえると助かるな。
てかそういうのは男性にはわからんものかーなるほどーとか思った。

ウケたのは、女性が「イヤ」と言う場合、本気で嫌なのか、言ってみただけなのか、本当は嫌じゃないのか、確実に知る方法はない(!)、っていうくだり(笑)。そりゃそうだろうよ。言ってる方だってわかんないこともあるだろうし。

相手に敬意をもって誠実に接し、自分にも自信をもとう、ていう、わりにまっとうでフツーな内容なので、とりあえずこの本を参照して嫌われるってことはなさそうな気がする。

男子中高生あたりが読むといいのかな。
なんつーか、人畜無害。




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「中国民間美術全集」5穿載編◉服飾巻(上) [書籍]

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山東教育出版社・山東友誼出版社、刊行。
もう10年以上前にブックフェアで入手した中国の書籍。たぶん、日本で翻訳刊行する出版社を探してたんじゃないかな。

全14巻の全集のうちの一冊。
漢文なんでよくわかんないけど他の巻もおもしろそうだった。8巻の工具編、13巻の玩具編とか。
とりあえず服飾編の下巻くらいは入手しとけばよかったかな。

いわゆる民族衣装や装身具の美麗で豪華な図版が満載。大喜び。
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刺繍とか織りとか飾りの細工とか文様とか色づかいとか、スゴい。迫力。
思うに、これらの装飾のくふうは、手仕事に由来するんだと思う。
机上でデザイン画をひくのではなくって、端切れを組み合わせたり綻びをつくろったりしながら、手仕事と同時に生まれてくるんじゃないかな。手で考えるっていうか。

これらの民族衣装はハレの日の盛装もあるけれど、ほとんどは日常着。畑仕事したりするときも、みんな綺麗に着飾る。動きづらくても着飾る。
人とは身を飾ることにものすっごい情熱を傾けることよなあ、としみじみ慨嘆。

服なんて着られればいいじゃないか、という人はナニカから目を逸らしてる、と思う。
何故にかと言えば、こーいう人は、着られればなんでもいい、といいつつ、実はなんでもいいわけではないから。なんでもいいなら、蛍光色のピタピタのスパンデクスとかを着るかというと、いや、それはちょっと、もっとフツーの、さあ。とか言う。
こういう人が着たい服は、あんまり頑張ってるふうじゃなく、でもさりげなく似合っててそこはかとなくオシャレで、でもさりげないから突飛に目立ったりはしない、あんまり考えないでさらっと着られる、かつ、お求めやすい値段の服ていう、実はオシャレ上級者がこなしている感じのとんでもなく要求の高い服装だったりする。フツーにオシャレっていうのは、めちゃくちゃ難易度が高いよ。そういうのを、まったく本人の努力とか研鑽もなしに、しかもお安く要求するというのは怠惰にも程があろうよ、いけ図々しい、とわたしは思う。
で、そーいう人を購買層に狙っているのがユニクロで、わたしがユニクロ嫌いなのは、そういう、怠惰な人々御用達の店って感じがするから。

そういう人は、こういう世界(民族衣装とか、美術工芸品的な)を自分にはカンケーない世界、と思うのかなあ。
実はこういう世界にこそ、文化とか芸術への、素朴で強烈な欲求があらわれてるんじゃないか。
着飾りたい。美しく装いたい。
そういう素朴な気持ちに素直だから、綺麗なものをつくるんだと思う。

着飾るのはよいことだし、オシャレは喜びなんだぜ。
もっと着ることを楽しもうじゃないか。


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「アール・ヌーヴォーとアール・デコ—蘇る黄金時代」監修/千足伸行 [書籍]

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大型本です。右側はケース。
このサイズ、この装本、この内容のわりには入手しやすいお値段で、それもなかなかびっくりだった。幾らだったかなー。確か12.000〜15.000円くらいだったと思うけど。

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やっぱり小学館っていう雰囲気が漂う、百科事典なページづくり。



アールヌーヴォーものの美術書は硬軟とりまぜてたらふくあるけど、この本は硬さと軟らかさの具合がうまいことよくつくられてる。
アールヌーヴォー〜デコの美麗な美術工芸図版っていうだけじゃなくって、19世紀末〜20世紀初頭のヨーロッパ近代化の流れを概観する、というテーマがしっかり設定されていて、なかなか骨太。
といって、学術書ほど硬くない。実用書ほど軟らかくない。

惜しむらくは、もっと工芸品の図版が欲しいかなー。絵画芸術の図版はわりに充実してると思う。
ストックレー邸の図版掲載はGJだけど、もったいぶり過ぎかも。

値段設定も含めて、“うまくつくってある”本って感じ。


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「美しいこと」橋本みつる [書籍]



純粋であることに焦がれる気持ち。
何かを誤摩化すたびに、心が痛むこと、恐ろしくなること。
そして、その気持ちを恥じること。畏怖すること。

純粋さへの憧れ、ってだけなら、いくらも描かれてるものがあるけど、そういうのは大抵陳腐なものに成り果てる。
純粋なものって、そんなにヤスいものじゃないはずだから、そこには畏怖とか躊躇いとか恐怖がなければ、嘘だ。

なんていうか。
嫌なんだ。恐ろしいんだ。
自分の意に染まないことを受け容れることが。
例えば、話を合わせるために上辺だけでも「いいよね」って言ったりするだけのことが、どうしようもなく苦しい。
汚れて、腐っていくみたいで。
そんな自分が、馬鹿みたいだったりもして、どうにか馴れようと思うのに、それでも吐き気がする。息が詰まる。
決して、自分が純粋だなんて思ってないのに。

そんな気持ちが、軽々と、鮮やかに描かれる。

「誰が見ても文句が言えない様な
 凄く綺麗なものがあればいいのに

 偽善な感じや 安易さとか 全然感じない
 それぞれの好みとか越えた感じの
 ひと目見て分かる美しいものがあったら

 どんなにホッとするだろう
 そしたらそればっかり見て
 それを信じて暮らすのに」

印象に残る台詞やモノローグがたくさんあって、決して上手い絵じゃないのに惹き込まれる。
傑作。

番外編の「みなこ猫拾い事件」も秀逸。

「優しくしてもらったり
 部屋に何かいれば
 僕が受けた傷がうまるという事じゃない
 それはもっと全然別なものだ

 それは
 僕自身で越えていかなきゃならない事であって
 女の子から優しくされて
 どうこうなる事ではないんだよ」

安易に癒されたりできない。
好きな女の子に、優しくされて嬉しいけれど。
ときどき、目が眩むけれど。
だけど、違うんだ。

美しいこと。
安易ではなく、偽善でもなく、絶対に、純粋に存在するもの。
そんなものに焦がれるのは、安易で陳腐だったりするんだけど。

美しいものは存在する、ということ。




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